
左が「インプレス ドライブスター タイプS」、右が「インプレス ドライブスター タイプD」
8方向の極薄カーボンシートを64枚重ねたハイテクフェース
1982年にカーボンコンポジットヘッドのドライバーを世界に先駆けて発表したヤマハ。その後、メタル(ステンレス)やチタン、カーボンクラウンとヘッドの素材が移り変わりながら、40年以上にわたりクラブ開発のノウハウを積み重ねてきた。そのヤマハが技術の粋を結集して、独自の8軸積層カーボンフェース「オクタアングルカーボンフェース」を投入した新作ドライバー「インプレス・ドライブスター」をローンチした。
見た目が大きくて安心感があり、ドローバイアス設計で球がつかまりやすく、左右MOI(※)が大きくてオートマチックにストレート~ドローで飛ばせる「タイプD」。アスリート好みの引き締まった顔つきで、左右MOIが大き過ぎず球を操作してコースを攻められる「タイプS」。この2モデル展開だ。
※MOI=慣性モーメント

「インプレス」の開発者・平井究氏
ぶっ飛び系クラブのフロントランナーこと「インプレス」の開発者・平井究氏は「8軸積層カーボンフェース」についてこう解説する。
「ヤマハでは以前からカーボンの可能性を探る研究はしていましたが、このカーボンフェースの開発がスタートしたのは2019年でした。フェースの構造としては、0.075ミリという極薄でペラペラのカーボンシートを64枚、重ねてできています(64層)。繊維の向きが異なる8タイプのカーボンシートを、ある法則に従って重ねました(8軸)」(平井氏・以下同)
軽くて、反発力が高くて、耐久性に長けるフェースが完成
8軸(方向)で64層(枚数)。かなり複雑高度化されたカーボンフェースということはわかったが、もう少し詳しく教えてもらおう。

ヤマハが三菱ケミカルと共同で開発した8軸積層カーボンの素材(メーカー提供)
「仮に、1方向だけのカーボンシートを重ねても(1軸)、繊維の向きに対しては強度がありますが、繊維の向きと垂直な方向に対しては全く強度がありません。ということは、あらゆる方向に対して均一な強度・性能を保つには、なるべく軸(方向)が多いほうがいい。かといって、それが無限にできるわけではありません。
カーボンシートの層(枚数)については、枚数が少ないほうが反発性能は高くなりますが耐久性は保てなくなり、枚数が多すぎると壊れにくいけれど反発性能が出なくなってしまいます。開発段階では、一番薄くて54層から一番厚くて66層まで、トータルで6種類くらい試しました」
カーボンシートの軸(方向)と層(枚数)については、どちらかを先に決めたり優先したりしたわけではなく、その2つの間で“行ったり・来たり”を繰り返して探っていった。そうして行きついた最適解が“8軸・64層”だという。
「向きが異なるカーボンシートを無作為に重ねればいいわけではなくて、重ねる順番=重ね方が肝心です。といっても、重ね方のパターンは膨大。初めのうちはトライ&エラーの繰り返しでした。
そうするうちにある法則がだんだん見えてきて、その法則に従ってカーボンシートを積み重ねていくと、軽量で、反発性能に優れて、耐久性が高いフェースができました。それが新開発の『8軸積層カーボンフェース』ということです。
もちろん、反発性能はルールに適合しているし、耐久テストをやってもホントに壊れません。ある法則とは? それは控えておきましょう(笑)」
ミスヒットに寛容で、ヘッドスピードを上げて飛ばせる
そもそも、ドライバーのフェースをカーボンにするメリットは?
「通常の金属製のヘッドだと、フェースが重かったんです。なので、重心がかなり前(フェース側)に来ていました。しかし、カーボンフェースは強度がかなり高いので、軽く作れるところが最大のメリットです。新作の『インプレス ドライブスター』は、フェースの重量が30g近く軽くなりました。つまり、ヘッド全体の約15%の重さが、前側(フェース)から消えて後方へ持っていけるように。結果として、重心を深く、低くできたし、MOIを大きくできます」
2モデルとも、とりわけヘッドの上下MOIが大きいという。
「打点がフェースの上下にズレても、真ん中に当たったときとそん色ない弾道が打ちやすいです。とくに『タイプD』は左右のMOIも大きいので、フェースのどこに当たってもナイスショットに近い球になりやすい。スイートエリアがかなり広くなったということです」
とはいえ、今どきのドライバーはMOIが大きいヘッドが主流。そういうドライバーとの違いはあるのだろうか?
「MOIが大きいドライバーは、ヘッド重量が205gなど重いモノが多いんです。でも『インプレス ドライブスター』のヘッド重量は『タイプD』も『タイプS』も196gと軽め。ヘッド重量が軽いと、速く振れてヘッドスピードが上がります。アマチュアも“振りやすさ”を体感してもらえるでしょう。
かといって、ヘッドが軽すぎるとインパクトの効率が悪くなる。われわれの研究では、ヘッドスピードとインパクト効率の相関関係で“一番オイシイところ”が196g前後だろう、と考えています」

オクタの名前のとおり、8軸のカーボンフェースと196gとやや軽量な重量が“おいしいヘッド”つまり“効率よく飛ばせるヘッド”を生み出した
実は平井氏、かつてドラコン大会を主催していたことがあるという。そこで得た知見が、ヘッド開発の裏づけになっている。
「海外のドラコン選手は、169gという超軽量のヘッドを使っていて、ヘッドスピードを上げることに尽力していました。それはちゃんと“結果”が出るから、ヘッドを軽くしているわけです」
さらにもう一つ、カーボンフェースにはチタンフェースとの大きな違いがあると指摘する。
「チタンフェースはボディに溶接してから、研磨をする工程があります。そうすると仕上がりで、どうしてもフェースの厚みにバラつきが生じてしまうもの。
一方で、カーボンフェースはボディに接着するので、研磨の工程がありません。ということは、フェースの厚さのバラつきがとても少なくできます。それによってルールの範囲内で、できるだけ反発性能が高いところに持っていける。いわゆる“当たり・外れ”がなくて、全ての製品で反発性能が高いところを保てています」
「カーボンだから音が悪い」という言い訳・妥協は許さない
カーボンフェースというと、打感がボヤける、打音がニブい、という先入観がある人は少なくない。しかし、クラブにこだわりが強いことで知られる藤田寛之プロが、新作の「インプレス ドライブスター」を試打したときに「カーボンフェース? あっ、そうなんですか!」と言ったように、好フィーリングの様子だった。
「打音に関してはかなりの回数の解析をしました。『カーボンだから音が悪いんじゃないか』ということをわれわれは許容しません。カーボンとはいえ、良い音が鳴るように突き詰めていったんです」
カーボン自体には音を左右する要素はないという。インパクトのときに出る音は、フェースから出る音だけではなく、クラウンから出る音もあればソールから出る音もある。接着部分やリブ(凸部)なども関係する。そこは楽器や音響機器を手がけるヤマハが積み重ねた知見とノウハウがものを言う。
「CADでモデリングをして、肉厚を設計したものを入れて、ヘッドのどこがどういう振動をして、振動の大きさはどのくらいか、周波数はどうなのか、といったことを解析します。すると『ここの振動が良くなさそうだ』『こうなったらいいんじゃないか』ということが見えてきて、それに対して、どこにどういうリブを立てたり、肉厚を調整したりしたら心地よい音になるかを詰めていきます。フェース単体で音を良くする、ということではありません」

リブはもちろん、チタンソールやカーボンクラウンの厚みなど打音・打感のために余念がない(写真は「タイプS」の内部構造)
ここまで「インプレス・ドライブスター」について詳細に説明してくれた平井氏はこう締める。
「われわれがクラブを作るときは、これまでお話しした『良い音がする』『振りやすい』『思い通りの弾道が出る』といった、数値に表せない“感性”という部分も高いプライオリティを置いて、その目標をクリアするべく開発しています。
そして今回、カーボンフェースのドライバーを作るに当たり、今までやったことがないことを試したりトライして仕上げました。最高のドライバーを作るために、カーボンフェースを研究して作り上げた傑作が『インプレス ドライブスター』だと思っています」
「『タイプS』も『タイプD』もつかまって球が上がる“やさしさ”がある」(後藤プロ)
ここからはプロに試打してもらったインプレッションをお届けする。試打インプレッションは学生時代に日本代表に選ばれ、現在は広尾ゴルフインパクトでアマチュアの指導を行い、みんなのゴルフダイジェストで人気連載「100切り」でお馴染みの後藤悠斗プロにお願いした。

後藤悠斗プロ。父の影響から小学校1年生でゴルフを始め、高校2年生で「TEAM JAPAN」選出。飛距離を伸ばすレッスンは大得意で現在は広尾ゴルフインパクト勤務
クラブを手渡すと、後藤プロは「この『タイプS』と『タイプD』は同じ460ccにはなんですよね?」と確認。というのも「 『タイプS』のほうは430ccくらいの小ぶりに見えて、『タイプD』はザ・460という安心感がある」からだという。

左が「インプレス ドライブスター タイプS」、右が「インプレス ドライブスター タイプD」
「『タイプS』はディープフェースでフェースアングルはストレートからややオープン、『タイプD』はシャローフェースでフェースアングルがストレートです。とはいえ『タイプD』は他社のドローバイアスに比べると構えた感じではドロー要素が少ない。どちらもトップラインとリーディングエッジがストレートに見えるので、ターゲットに対してかなり構えやすいです」と後藤プロ。
インプレス ドライブスター タイプSを試打
早速、「タイプS」から試打を開始。シャフトがメーカー純正の「SPEEDER NX for Yamaha M-425D(フレックスS・中調子)」ということから、ヘッドスピードは42m/s前後とした。
1球目からミート率1.50を記録し、「まず初速が速いですね! プロなので素振りすればある程度、クラブに合うように調整して振れますが、それでも合わせるまでに3球ほどかかります。それなのにミート率1.50が初っ端から出たのは驚きです。またやはり構えやすさがかなり良い。打感は食いつき系ですが、カーボン特有のこもるような感じではなく、打っていて心地いいです。そして、構えたときとの印象の違いでいえば、『タイプS』でも思った以上につかまります。10.5度のロフト角でスピン量は2500rpm前後で安定して、ストレートからドローが打ちやすいクラブです」

「タイプS」は顔の形状からストレートに構えられる
飛距離 | キャリー | ボール初速 | ミート率 | 打ち出し角 | スピン量 |
---|---|---|---|---|---|
256.1Y | 240.5Y | 63.2m/s | 1.50 | 12.0度 | 2502rpm |
インプレス ドライブスター タイプDを試打
次に「タイプD」を試打。こちらのシャフトはメーカー純正の「SPEEDER NX for Yamaha TM-425D(フレックスS・先中調子)」なので、こちらも同じくヘッドスピードは42m/s前後とした。
「同じロフト角10.5度ですが、『タイプS』よりも200~300rpmくらいスピンが入るので、球が上がってくれます。アベレージゴルファーは、まず『タイプD』を試めしてもらいたいです。また、『タイプD』というだけあって、ドローを打ちやすいです。打点をヒール寄りにズラしてもドロー系の球が出るほど。やや強めのアウトサイドイン軌道の球でようやくストレート。スライスが出ないクラブといえます」

「タイプD」は顔の形状からドローを打やすい構えに自然となる
飛距離 | キャリー | ボール初速 | ミート率 | 打ち出し角 | スピン量 |
---|---|---|---|---|---|
255.7Y | 242.6Y | 62.4m/s | 1.49 | 14.6度 | 2798rpm |
「どちらもつかまり系のクラブでした。選ぶポイントとしては、『タイプS』は今どきの後方がストレッチしたヘッドに違和感がある人、そしてそのタイプでより球を操作したい人は9.5度を選ぶといいと思います。逆に『タイプD』は振れる人でも球が上がらなかったり、つかまえるのが苦手な人。ヘッドスピードよりも好みの顔、弾道で選ぶことをオススメします!」
文/新井田聡
撮影/三木崇徳
THANKS/広尾ゴルフインパクト