「i530」と「i230」の形はそっくり! これならコンボでも違和感ない
そもそも大前提として、コンボありきでフィッティングに臨んでいいものなのだろうか。
「最近はコンボが浸透してきて、“アイアンを組み合わせて使いたい”という方も多くいらっしゃいます。そういう時はご要望に応じてコンボ前提でフィッティングします」と言うのは、今回フィッティングを担当してくれたピンゴルフの大嶋達也さん。実際、そのほうが効果的なアイアン選びになることも多いという。

大嶋達也さん。爽やかイケメンフィッター。丁寧に要望を聞き出しながら、ベストフィットするクラブへと導いてくれる
今回フィッティングを受けたのは、ゴルフ歴35年の後藤康徳さん。現在もピンアイアンのユーザーだが、使用する「i25」が10年選手ということもあり、そろそろ買い替えを検討中。どうせなら流行りのコンボアイアンにしたい、とのこと。狙いは人気の「i530」と「i230」のコンボだ。

後藤康徳さん。ゴルフ歴35年の55歳。最近の飛距離低下への対策、また安定してスコア80台を出すために新しいアイアンの購入を検討している。ドライバーの飛距離は230ヤード

i530アイアン
飛び系ツアーアイアンを標榜する「i530」アイアン。ツアーアイアン系だけにヘッドはコンパクトかつクリーンなルックス。7番で27.5度というストロングロフト設計だが、中空構造による高初速、加えて圧倒的な低重心設計により、最高到達点を上げ、高弾道で飛距離を伸ばすことに成功した。また内部に独自のポリマーを搭載し、さらにサウンドリブを設けることで中空構造ながらもツアーアイアン好きも満足の打感、打音に。飛ばして狙えるアイアンだ。

i230アイアン
使用プロに多くの勝利をもたらしたi210の後継「i230」アイアンは、金谷拓実、渋野日向子が愛用するツアーでも人気のモデル。バックフェース全面にはエラストマー・インサートを組み込み、芯を外しても心地よい打感を損なわない。また緻密な設計から生まれた余剰重量をトウ側のウェートに転換するなど、慣性モーメントも拡大。ミスヒットにさらに強くなった。コンパクトなヘッド、クリーンなルックスはi530同様で、コンビネーションしても使いやすい。
さっそく、フィッティングスタート! まずは現状の把握から始まるようだ。
大嶋 今のアイアンを使っていて何か問題や物足りない点はありますか?
後藤 基本的には満足しています。でも、年齢なりに飛距離が落ちてきている感じがありますね。
大嶋 飛距離はどれくらいですか? 例えば7番だと。
後藤 キャリーで140ヤード。ランを入れて150ヤード弱ですね。
それからこれは私の腕の問題ですが、左右に安定しないことがあります。基本的に左に巻くような球が嫌なんですが、逆に右も距離がガクンと落ちるので避けたいんですよ。
大嶋 なるほど。しっかりつかまえたいけど、左に巻くのは嫌というところですね。そして飛距離も伸ばしたい。わかりました。そこを踏まえて、フィッティングしていきましょう。
フィッティングでは4つのステップを踏んでアイアンを決めていくという。
①ヘッドを決める
②ライ角、シャフトの長さを決める
③シャフトの重さ、キックポイントを決める
④グリップの太さを決める
大嶋 今お使いのアイアンが「i25」なので、同等のロフト設定の「i230」の7番(ロフト33度)を打ってみましょう。シャフトはご自身のものと重量が近い「N.S.プロ 950GH」になります。打つ時にはヘッドの見た目、打感を意識してお願いします。

フィッティングスタート。まずはi230の7番アイアンでテスト
後藤 見た目はまったく違和感がないですし、逆に構えやすい。打感は「i25」と大きく変わりませんね。
大嶋 データを見ると、飛距離、高さは十分出ています。ただ気にされている「左に巻く」ミスが何球か見受けられましたが、これは追ってシャフトやライ角で調整します。基本となるヘッドは「i230」でよさそうですが、飛距離を出したい、というお話でしたので、「i530」の7番も打ってみましょう。

上がi230、下がi530。ヘッドの大きさ等のプロファイルはほぼ同じ
後藤 ヘッドの大きさは「i230」と変わらないんですね。形もほぼ同じで違和感がありません。
打つと「i230」がキャリーが140ヤードだったのに対し、「i530」は152ヤードと10ヤード以上伸びた。
後藤 打感も変わらないのに、かなり伸びますね!

左が「i530」、右が「i230」。i530のほうがトウ側のウェイトがやや後方に位置。ストロングロフトだが高弾道が出やすい設計だ
大嶋 「i530」はロフトが立っている(7番で27.5度)ので、そのぶん楽に飛ばせます。ストロングロフトだと高さが出ないのでは? と言われますが、ピンのアイアンはしっかり高さが出ることをベースにしながら、ロフトを立てています。いくら前に飛んでも、高さが出ないアイアンはスコアにつながりません。データ的にも球の高さは十分なレベルですよ。
後藤 左右のばらつきという点では、「i530」のほうが抑えられている。芯が広くてやさしいのかな。なんなら、全番手「i530」でもいいかもしれないです(笑)

オレンジの分布が「i530」。飛距離が伸び、左右ブレも少ない
大嶋 ちなみに後藤さんは、何番から“打ちにくい”と感じていますか?
後藤 そうですね……、今アイアンは5番から入っていますが、打ちにくさは特になくて。強いて言うなら、5番、6番はしっかり“飛ばす”クラブ、7番からは“狙う”クラブという感覚で打っています。
大嶋 なるほど。それならやっぱりコンボをお勧めしたいです。「i530」と「i230」は似ているとはいえ、構造は違います。「i530」のほうが飛ばせるし、「i230」はプロも使う操作性が高いモデル。飛ばす、狙うの境目で分けて組み合わせるのがいいですね。「i230」があってこそ「i530」のやさしさを体感できるとも言えます。なので、7番アイアンを境目にするのがいいと思います。
7番アイアンを2本入れる!? こだわり溢れるセッティングに
ここで後藤さんにひとつ疑問が。「i530」と「i230」の“ロフト差”についてだ。確かにカタログを見ても、「i530」の6番が24度、「i230」の7番が33度。番手の数字通り組み合わせるとなると9度も間が空いてしまう。

同じ7番で比べると5.5度差、6番と7番を比べると9度のロフト差がある
後藤 さすがにこれではロフトが空きすぎですよね。
大嶋 先ほどそれぞれの7番を打っていただきましたが、キャリーの差が12ヤード程度、弾道の高さもそれぞれしっかり出ています。ここのつながりがとてもいいんです。ですのでご提案としては、「i530」の7番を実質の6番として、7番アイアンを2本入れるコンボです。
後藤 7番を2本入れる! それはイメージになかったです。

同じ7番でもロフト差によってちょうどいい飛距離差に
7番同士を比較すると、ロフト差は5.5度。通常の番手間のロフト差は4度なので、それでも大きく空いている気もするが、そこは問題ないと大嶋さん。
大嶋 番手は数字でしかありませんから、すべて結果ありきで考えるべきです。今回のフィッティングでは、「i530」と「i230」の7番を入れることで、飛距離の階段がしっかり作れることがわかりました。
後藤 キャディさんにクラブをお願いするときは「どっちの7番?」ってなりそうですけど(笑)、結果がいいし、こだわっている感じもあっていいですね!
希望していたように、「i530」と「i230」のコンボに。番手構成は、6番、7番が「i530」、そして7番~PWが「i230」に決定! 後藤さんもご満悦だ。

「i530」の6番、7番、「i230」の7番~PWの計6本に決定! さらにフィッティングは続く
体の測定と実打でぴったりのライ角を決定
さてここからは、より自分に合ったアイアンにするために、ライ角やシャフト選びに入っていく。まずは適正なライ角の選択から。ピンのクラブに詳しい方ならご存じだろうが、ピンのアイアンには“カラーコード”があり、幅広いライ角から自分に合ったライ角(カラー)を選択できる。

ブラックが標準のライ角。そこからアップライト5度、フラット4度まで選択が可能
自分のライ角を見つけるには、①床から手首までの長さを測り、それに応じたカラーを目安にして、②“ライボード”というアクリル板の上のボールを打ち、ソールに貼ったシールのどこが擦れたかをチェックする。
大嶋 床から手首までの長さを測ると、後藤さんのカラーはブルー。標準より1度アップライトです。これを目安にしますが、いったん標準ライ角のブラックで打っていただきます。
打つと、ソールの真ん中よりややトウ寄りに擦り傷が付いた。これを見て、+2度アップライトのグリーンも試打。すると意外なことに、ほぼ同じ位置に擦り傷が付いたのだ。

アクリル板の上のボールをヒットして適正ライ角をチェックする

右がスタンダード(ブラック)、左が+2度アップライト(グリーン)のライ角。ほぼ同じところに擦り傷がついた
後藤 あれ? ということはもっとアップライトのライ角のほうが合っているということでしょうか。
大嶋 こういう方、結構いらっしゃいますよ。打つ時に無意識のうちに手の位置を変えて打ってしまうんです。それならば、先に測定した結果からブルー(+1度)が打ちやすいはずですので、そちらでライ角はいかがでしょう。
シャフトの長さは、長くすれば飛んで高さも出る可能性があるが、当てにくくなることにもつながる。球の高さは十分出ていることも踏まえ、長さはスタンダート(7番:37インチ)のままとなった。
重さとキックポイント違いのシャフトをとことん試打!
続いてはシャフト選び。試打したNSプロ950GH neoだと少し軽く感じた、という意見を踏まえ、「一度重くしましょう」と大嶋さん。i230のヘッドで、98グラムから114グラムへシャフトの重量をアップ。するとヘッドスピードが上がり、初速も伸びた。重くしたらスピードは落ちそうなものだが……。
大嶋 テストしたのはNSプロ モーダス TOUR 120。振りやすいからスピードが上がったのか、頑張って振ろうとしたから上がったのか、いずれにしても重くするのは悪くなさそうです。
その後、ダイナミックゴールド(DG)ツアーイシュー(130グラム)も試したが、ボール初速が上がり、飛距離が最も出る結果に。

赤の分布がDG ツアーイシュー(S200 )。130グラムとヘビー級のシャフトだが、結果は良好。しかし18ホール使うとなると「自信がない」と後藤さん(白枠はNSプロ950GH neo、青枠はNSプロ モーダス TOUR 115装着のデータ)
後藤 なんだか重いシャフト、いいですね。
大嶋 確かに良いデータですね。手を使わずに、体で振れるようになるのかもしれません。ただ問題は18ホール振り続けられるか、ということ。
後藤 そうですよねぇ。そこは正直自信がありません(笑)
そこから、今度は軽めのシャフト(NSプロ モーダス TOUR 105:106グラム)もテストしたが、結果は重めのほうが良かった後藤さん。さらに、NSプロ モーダス TOUR 115(118.5グラム)も試打すると、これがかなりの好感触。シャフトはやや重め、キックポイントは手元が合うということが判明した。このシャフトで決定でもいいのだが……。
後藤 さっきのDGの振り感が良くて。あの感じでちょっとだけ軽いものを試してみたいです。
大嶋 オッケーです! それ、可能性あると思いますよ。

無数のシャフトからピッタリの1本を探していく大嶋さん
リクエストによって、DG120(118グラム/元調子)をテスト。するとこれがドンピシャ! 「i530」に挿しても好結果となった。気になったヘッドやシャフトは、遠慮なくリクエストできるのがフィッティングの特権。そこはある意味図々しく、納得いくまで試すのが正解だ。
グリップはクラブと体の“唯一の接点”。絶対に疎かにしないことが重要だ!
最後はグリップの太さのフィッティング。グリップはクラブと体の唯一の接点。大事なのはわかっているのに疎かにしがちなポイントだ。
大嶋 ここでは手全体の長さと、一番長い指の長さを測ります。そこから見てみると……後藤さんの場合、弊社の基準ではホワイト(やや太い)になります。実際持ってみてどうですか?

最後のフィッティングはグリップ。ここも抜かりない
後藤 すごくしっくりきます。力まずにすき間なく握れるというか。
大嶋 これが細かったりすると動かないように力んでしまうので、太さはしっかりと合わせたほうがいいです!
濃密なフィッティングで、十二分に納得して即決した新しいコンボアイアンは以下の通り。
●ヘッド
6I、7I:i530アイアン
7I、8I、9I、PW:i230アイアン
●ライ角
ブルー(+1度アップライト)
●長さ
7番:37インチ(標準)
●シャフト
ダイナミックゴールド 120 S200
●グリップ
ホワイト(やや太い)

今回の取材先「PING FITTING STUDIO 秋葉原」。同様のフィッティングは他に大阪、みなとみらい、武蔵浦和、新宿の直営店で受け付けている。また全国の認定フィッター在籍のショップでもフィッティング可能だ
「i530」と「i230」のコンボセットが人気の理由は、それぞれのモデルの完成度が非常に高いことに加え、フィッティングを受けることで自分に合ったスペックを引き出してくれるからに他ならない。
ピンのフィッティングは60年以上の歴史を持ち、他とはひと味もふた味も違う緻密さだ。そして今回レポートした45分間のフィッティングは、なんと誰でも「無料」で受けられる。ベストフィッティングのコンボアイアン探しはもちろん、気になるピンのクラブがあれば絶対に受けるべきだろう。筆者も早速予約を入れさせていただきました!
PHOTO/Hiroaki Arihara