
米ツアー2戦目を予選落ちし、ほろ苦いデビューとなった岩井姉妹(24年撮影)
日本ツアーの選手が海外ツアーに参戦する際、解説記事などで「海外の環境に早く慣れることが大切」といった表現をよく目にします。
ではこの「慣れる」とはどのようなことなのでしょうか? そもそも、日本ツアーと海外ツアーではなにが違うのでしょう。プロゴルファーであり、女子ツアーを中心にコーチとしても活躍する中村修プロに聞きました。
「海外に挑戦した選手や、彼らに帯同したコーチらは、一様に『いかにアウェイ感をなくせるか』が重要だと口を揃えます。最初は知り合いもおらず、言葉も通じず、練習場の端っこで練習するのがルーキーの常。まずはそこに“慣れる”ところからです」(中村プロ、以下同)
これはよく理解できます。たとえばサラリーマンならば、いきなり海外支社に転勤を命じられたとしたら、転勤直後からトップパフォーマンスを発揮するのはかなり難しいはず。まずは現地の住環境や食事、外国人の同僚との人間関係に馴染んでから……さあ本腰入れて仕事をしようか、となりそうです。
また、中村プロは“チーム作り”も重要だと言います。
「このアウェイ感は、海外のみならず日本ツアーにデビューしたとき、どのプレーヤーも感じること。そこから先輩たちと同伴プレーヤーになったり、成績をあげたりしながら自分の居場所として徐々に慣れていくものです。荷造りや移動、プロアマなども含めて、ツアー生活に慣れて行くことで自分のプレーに集中できるようになります。ランキング上位の選手であればこれまでの海外メジャーでの経験も大きいでしょうが、基本的には国内ツアーのルーキー時と同じことを海外でもう一度経験することになります。その中でアウェイ感をなくしたり、自分のプレーに集中するには、チーム編成もとても重要な要素になります。言葉や食事、キャディ、移動も含めてサポートしてくれるチームをどう作るかもポイントです」
さらに、もちろん技術的にも大きく異なる部分があります。たとえばそれはウェッジワークに表れるそう。
「たとえばアメリカでは、30ヤード以内のアプローチは“フィネスウェッジ”と呼ばれ、ショットとは打ち方が違うもの、とされています。そして、具体的にはアプローチをハンドファーストで打ちません。これは芝の違いが理由で、アメリカが長い畑岡奈紗選手も、ハンドファーストで打っていませんでした」
アプローチはハンドファーストが基本と言われますが、芝の異なるアメリカでは、そもそものセオリーが異なるというわけです。そして、その違いはウェッジに求められる機能の違いとなって表れます。
「日本と異なり芝が柔らかい海外では、ハイバウンスのウェッジを使って、バウンスを活かす打ち方が求められるんです。芝を含めた地面が硬ければローバウスンス。地面が柔らかければハイバウンスというのが一つの目安となります」
さらに、必要となるウェッジの機能が異なることで、ウェッジセッティングにも違いが生じるといいうのです。
「セッティングも日本に多い52・58度の組み合わせではなく、54・58度、55・59度といったセッティングが多く、54度、55度をハイバウンスにするケースが多いと聞きます。コースのコンディションによってウェッジを入れ替えるオプションを用意しておくことも必要です」
芝が違うことで打ち方が変わり、打ち方が変わることで選ぶウェッジが変わり、選ぶウェッジが変わることでクラブセッティングが変わる。“風が吹けば桶屋が儲かる”ではありませんが、このように小さな違いが積み重なって、大きな違いになっていくようです。
多くの日本のトップ選手が参戦する今季の米女子ツアー。日本ではトップ・オブ・トップの選手たちでも、違う環境ではツアールーキー。このような違いに慣れて、大活躍を期待したいですね。