
大観衆の最終日。「こんなギャラリーの方がいたのは初めてだと思います」(明愛)
月並みな表現しかできないが、今日の明愛は本当にすごかった。メディアセンター内での優勝予想は23アンダー。もしくは、あまり伸ばせず20アンダー前後。これほどまでの戦いになるとは誰も予想していなかった。
明愛のプレーを振り返ってみたい。「朝コースに来たときに、気持ちの落ち着き具合が良かったので、安心してコースに出ることができました」と話す通り、エンジェル・インが4番までパーを重ねる中、明愛は1番、3番、4番でバーディを奪い、あっという間に3打を縮める展開に。しかも3番、4番のバーディはどちらも7〜8メートルの簡単ではないバーディパットを見事に決めた。明愛も「こんなに入る日はなかなかないので、ラウンドしていて全然疲れなかったです」と話した。
4番のバーディでちょっと会場の空気が変わった。最終組は地元のジーノ・ティティクルがいたため、その歓声たるや凄まじいものがあったのだが、ジーノは2番でダブルボギーを打ってしまい、伸ばせない。それに代わり明愛がバーディを重ねる。明愛に対する声援が徐々に大きくなっていった。
「今まで経験したことないくらいのギャラリーの前でプレーすることができて嬉しかった」(明愛)
しかし、エンジェルも黙っていない。5番から3連続でバーディを奪い、そう簡単にトップは譲らない。エンジェルはショットが抜群にいい。最終的にはフェアウェイキープ率は8割を越え、パーオン率に至ってはまさかの9割越えという驚きの数字を叩き出していた。正確にフェアウェイをとらえ、確実にグリーンに乗せる。そんなお手本のようなゴルフを優勝争いのプレッシャーの中でも淡々とこなしていた。前半は明愛が5つ、エンジェルが3つ伸ばし、2人の差は3打に縮まってサンデーバックナインに入っていった。
「ラインはよくわからない。ちょっとフックで読みました」
後半の10番パー5は多くの選手がバーディを取っている“取りたい”ホールだが、明愛はこの3日間取れていない。しかし、今日は違った。10番で確実にバーディを取ると11、12番と3連続。あっという間にエンジェルに追いついた。
このときすでに、メディアセンターでの予想など全く当たらない展開になっていたのだが、追いついた時に再度予想してみた。明愛はこの時点で8つスコアを伸ばしている。初日に出した10アンダー以上は予想しにくく、残りホールで考えると15番と18番でバーディを取って明愛は26アンダー。エンジェルがそれ以上だったらもはや仕方ないよな、という勝手な予想……(これもいい意味で裏切られたが)。
その直後、エンジェルが13番から3連続、明愛も14、15番で連続バーディ。エンジェル27アンダー、明愛26アンダー。どちらも譲らない。こんな展開にコースはザワザワしていた。18番のグリーン脇に大きなビジョンがあり、そこにプレー2人のプレーが映し出されていたのだが、そこでも取った取らないでギャラリーが沸いていた。
「もちろん、1打差があるのはわかっていましたがどこでバーディを取りたいとか、計算は全くしていませんでした。でも、とにかくバーディが必要だったのでその気持ちだけは持っていました」(明愛)
そして17番で明愛がボギーを叩き2打差で迎えた18番。この時の心境を明愛はこう話す。
「2打差になってしまったので追いつくのは難しいかなぁと思っていたんですけど、最後まで諦めずにやろうと決めていました。イーグルを狙いにいきました」
ティーショットは左のラフだったが、ピンまでは240Y。決して狙えないわけではない。

18番のセカンドショット。ボールはラフだったが5Wで果敢に攻めてイーグルにつなげた
「イメージ通りでした。風はフォロー、ラフだったのでフライヤーを計算して、5番ウッドでドローをかけて打ちました」と、土壇場で最高のショットを放った。「ちょっとこれ、まだあるぞ」的な雰囲気が18番グリーンを包む中、7メートルのイーグルトライ。
「入れるしかない状況だったので、下りでしたけどある程度の強さは必要でした。でも、タッチも合わせつつみたいな。ラインはよくわからなかったんです(笑)。最初フックで、その後スライスするかなぁって。あまり切れないと思って、少しフックに読みました」と思って打ったボールは綺麗な転がりでカップに吸い込まれた。明愛はやり切ったような笑顔で小さくガッツポーズ。エンジェルがバーディパットを決めて勝負は決したが、それでもここまでの戦いを見せてくれた2人に大きな拍手が送られていた。

18番のイーグルパットを決めガッツポーズ。会場はこの日1番の盛り上がりを見せた
やり切ったとはいえ、当然ながら満足はしていない。明愛は「この負けは仕方ないとは思っていません」ときっぱり。ほぼ完璧なゴルフをしても届かなかった1打。この重みを胸に、明愛はもっと強くなるはずだ。

優勝したエンジェル・イン。ロサンゼルス生まれの中国系アメリカ人。この勝利で米ツアー2勝目
撮影/姉崎正