
予選会をアマチュアトップ通過した合田の教え子「松山菜穂子さん」とゼッケンを見せる合田洋(撮影/岡沢裕行)
合田洋が担いだバッグの持ち主は松山菜穂子(56)で、合田が15年ほど教えているアマチュアゴルファーだ。ゴルフは28歳の時に、御主人の職場のコンペに出るためにやり始めたのがきっかけで、最初はどこにでもいる一般アマチュアゴルファーだった。それが次第にゴルフにハマり、2006年の日本女子ミッドアマを皮切りに、アマの日本大会に出場するレベルに。2023年は関東女子シニアで8位、日本女子シニアで10位タイの好成績を挙げている今が“上げ潮”状態のシニアアマ選手だ。
それにしても、名のある大会での優勝もなく、いわばトップアマでもない松山に対して密かにローアマのタイトル奪取を期待するというのは、いかにも突飛な発想をする合田洋らしいのだが、そこにはどんな裏付けと期待があったのか。
ホールアウト直後に、二人に話を聞いてみた。
――先生である合田さんにキャディをしてもらうのは初めてですか。
松山: そうなんです。ずいぶん以前に、「チャンスがあれば俺担ぐからね」って言っていたことを覚えてくれていて。私としては、そういう機会があったらいいなぁと思いながらレッスンを受け、全国大会とかで頑張っていたんですが、たまたま今回、こういう機会があって。
合田: たまたまっていうけど、彼女は予選会をアマチュアトップで勝ち上がってきたんですから、すごいですよ。努力家なんです。
松山: そんな。プロのおかげなんです。
合田: いやいや、頑張ってますよ。
――これまでアマチュアの日本タイトルの大会は出られていますけど、プロと一緒のオープン競技の試合は始めてということですが、どうですか?
松山: 楽しいです。合田プロがそばにいてくれるというのもあるんですけど、もうただワクワクとドキドキとしかなかったです。(プレーが)ヘボかった時は緊張しましたけど、でも、めちゃくちゃ楽しかった。
――どういうところが楽しかったのですか。
松山: 距離とかもですけど、女性で同じ身長とかの人で、あ、こんなイイ球を打つんだとか、こういうところからこんな厚い音してイイ球を打つんだとか、そういうのを身近で見られたので。
合田: でも全然、飛距離は負けてなかったので、びっくりしてましたよ、僕は。さすがに今日はすごい飛ぶ林佳世子さんっていうプロとは距離が違ったけど。でもそれ以外は飛距離は遜色なかったので、全然やれるなって感じでしたよ。
松山: どうかなぁ……。
合田: 試合のプレーに関しては、2日目になると、ちょっとこう崩しやすいとかはありましたから。そういう克服すべきものというか、今後レッスンしていく中ですごいいい課題が見つかったので良かったです。
――ご本人的には、今回、ここが足りなかったといった課題は何か感じましたか。
松山: 基本の『き』です。
合田: いや、そんなことはないけど。
松山: いえいえ。アドレスから始まり、あとショートパット。もう基本のきです。やっぱりちょっと練習量が足りないな。プロの方たちって四六時中やっておられて、こっちは仕事しながらなので、やっぱり全然足りないなっていう感覚はあります。
――そういう差を感じながらも、プロと一緒に回れるシニア女子オープンという大会に出たというのは意義があったと思いますが。
松山: そうですね! ワクワクが止まらなかったです。だってこんな機会ないので。こういう機会を設けてくれたっていうことにもうワクワクで、楽しみしかなかったです。
――大会に臨むにあたって、目標みたいなものはあったんですか?

教え子である松山さんの打球を追いドライバーを預かる合田(撮影/岡沢裕行)
松山: 目標というか、プロがいてくれるから、今後に活かせるように、良いところも悪いところも全部見てもらおうと思ってプレーしていました。
合田: 僕は目標としては、アマチュアの中でも3位以内にっていうのがあったんですよ。それで、まあ、あわよくばローアマなんて取れたらと。それはやっぱりタイトルなんでね。
――高い目標を持っていたわけですね。
合田: 練習ラウンドでトップのアマチュアの方と一緒に回ったんですけど、本当に上手いんで、びっくりしちゃうぐらいだったんです。でもその中でもね、松山さんならうまくローアマ取れるかな、そうなれば最高だなと俺は思ってましたからね。
――予選もトップ通過ですから、その可能性はあると。
合田: うん。ご本人には言わなかったんですけどね。プレッシャーになっちゃうから。でも距離的に全然劣っていない。だから自分のゴルフを練っていけば、あそこまで到達することは十分に考えられます。やっぱりタイトルだからね。
松山: そうですよね。しかも第1回目だから。取れればね……。すみません、やっちゃったんで……。
――じゃあ、次回以降の大会では、ぜひローアマを。
松山: 来年から(出場資格が)40歳になるという話を聞いているんですよね。
合田: それだとさすがにちょっと厳しくなるかな。宮里藍さんや横峯さくらさんなんかが出れるってことでしょ?
――たしかにその二人は今年、40歳ですからね。
合田: そのへんの世代が出てくるとね、さすがに難しいですよ。でもね、それはそれでいいことなんですよ。
松山: そうですよね。だからこの場に出られるということも名誉だと思っています!
――では、第1回大会から連続出場という目標を立てるとか。
合田: いや。俺の中では彼女にはやっぱりね、タイトルをとってもらいたいんですよ。それが俺の1番の目標なんです。
松山: 今回は予選しか通れなかったので、その後がちょっと。でも、私もプロについていけば間違いないなって思って、またさらに頑張ろうと思ってます。
――そのためにも、この第1回大会に出場できたことは大きかったですか。
松山: はい。アマとして今まではロープの外から見てたのに、ロープの中で、プロの隣で練習したり、バンカーショットとかアプローチだったりを、見てるだけですっごい楽しかったです。
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1994年に『日本プロゴルフ選手権』で、当時29歳の合田洋は、予選会を通って本戦の出場権を獲得。最終日にはジャンボ尾崎と最終組で優勝を争い、1打差で優勝するという快挙を達成した。その生徒である松山菜穂子さんも今年、予選会を通過して第1回の『日本女子シニアオープン選手権』の本戦の出場権を獲得した。松山に対して、何度も「タイトル」という言葉を投げかけ、いつかはそれを獲って欲しいと言うのは、合田自身がその重みと、それに手が届くミラクルの存在を知っているからだ。