
「大東建託・いい部屋ネットレディス」で3年ぶりの優勝を飾った渡邉彩香(撮影/岡沢裕行)
上田桃子の言葉に支えられた

2023年にシードを失い、一時は引退も選択肢に入っていたという(撮影/岡沢裕行)
静かな優勝決定シーンだった。渡邉は通算17アンダーまでスコアを伸ばしてホールアウト。2組後を回っていた最終組の内田が第1打を打ち終えた時点で逆転の可能性が消滅し、渡邉の優勝が確定した。グリーンサイドで見守っていた渡邉はこの瞬間にほっとしたような笑みを浮かべた。
今大会を主催する大東建託グループと所属契約を結んでから今年が10年目で、今大会自体も今年が10回目の記念大会。「うれしいですし、契約も10年目で、大会も10年目で、いいときも悪いときも変わらずに応援してくださって、大東建託の社長さんをはじめ皆さんがすごく喜んでくださっている姿を表彰式で見て、選手としては幸せだなと思います」と思いを言葉にした。
首位に2打差でスタートし、いきなりトップギアで突っ走った。1番パー4で3メートルを入れてバーディ先行。3、5番でもスコアを伸ばし、6番パー5で逆転優勝への流れを引き寄せた。ピンまで残り210ヤードを5Iで2オンに成功すると、10メートルのスライスラインを読み切ってイーグル奪取。一気に単独首位に躍り出た。
「前半はパッティングが本当によく決まって、チャンスについたところをしっかり取れた。早い段階で上が見えてきたのですごくいい流れでプレーできました」
終盤の勝負どころでも集中力は緩まなかった。15番は2.5メートル、16番は2メートルのパーパットをしっかりと決め、17番、18番で連続バーディフィニッシュ。18番でカップ上から2メートルのフックラインを決めきった直後は右手の拳を2度突き上げて喜びを爆発させた。
「15、16番は本当に外したら優勝はないと思ったので、後ろの状況も分からないですけど、それくらい大事なパターだと思っていたので、幸いにいいラインについた。120%の集中力でした」
ドライバーの不振に悩んだ時期を乗り越えての復活Vでもあった。2023年にシードを失い、一時は引退も選択肢に入っていたという。
「そのときは苦しかったんですけど、人づてに大東建託の社長さんが『どんなときでも絶対応援したい』と言っていると聞いて、シードを落としているのにそういう気持ちでいてくれるというのはすごくうれしかったです」
苦しい時期に心の支えになったのが上田桃子の言葉だった。
「自分はもっとやれるという気持ちがあるのかを桃子さんに問われたことがあって、その気持ちがあるうちは絶対強くなれるよと言ってくれました。それが(現役を)続けようと思ったきっかけなんです」
柔道家の夫の支えもチカラになった

「これからも2勝目、3勝目と頑張っていきたい」と渡邉(撮影/岡沢裕行)
今大会はドライバーを必要以上には使わない戦略も奏功した。この日ドライバーを使用したのは9、10、14番の3ホールのみ。「勝つためにはドライバーはいらないかなと。安定性ですかね。ちょっと曲がったりすると体力も使いますし、やっとのパーを拾い続けると流れも難しくなるので、10ヤード、15ヤード飛距離が落ちてもセカンドでバーディチャンスを多く作れればいいと思いました」と振り返った。
2021年に結婚した柔道家の夫に届ける優勝でもあった。
「旦那さんの理解があってですね、結婚してもまったく変わらない感じでゴルフに没頭させてもらっている。優勝したら一緒に喜んでくれる人が家にいるという点では変わったかなと思います」
この優勝で今後の目標も上方修正された。
「これからも2勝目、3勝目と頑張っていきたいし(国内)メジャーを勝ちたいなと思っていたので、これで日本女子オープンにも出られるし、後半戦のメジャー3試合(最終戦のツアー選手権)リコー(カップ)もあって、メジャーに勝って3年シードがあると、また自分の人生プランもいろいろ変わるかなという気持ちもあるので、そこですかね、次は」
元々は日の丸をつけるような日本のエースプレーヤー。この優勝をきっかけにもうひと花、それも大輪の花を咲かせたい。