「スパイダー」スコアアップのための3つの要素
スパイダーがここまで圧倒的な支持を受けている理由、それは「ショートパットに断然強い」ことが挙げられる。勝負どころの1.5メートルをいかに確実に決めるか、これはプロ、アマチュア問わず、スコアアップのための大きな課題。この課題をクリアするための3つのポイントが常に研究され、バージョンアップを繰り返している。
POINT1 ミスヒットへの強さ
初代スパイダー(ロッサ モンザ スパイダー AGSI+)が誕生したのが2008年。その3年前の2005年には、スパイダーの礎ともいえるモデルが存在した。「ロッサ モンザ VT」がそれだ。

左が「ロッサ モンザ VT」。右が「ロッサ モンザ スパイダー AGSI+」の分解モデル
「ご覧の通り、スパイダーの外周部分に当たるスチールのフレームは、VTのフォルムを踏襲しています。VTは真ん中部分をくり抜き後方にウェイトを装着するなど、相対的に外側を重くしてMOIをアップさせ、ミスヒットへの強さを求めていることがわかると思います。スパイダーでは、この形状をヒントに、外側にはステンレス、内側のボディには軽量のアルミを用いて、比重の差を極端に大きくしました。これにより、当時としては圧倒的なヘッドの直進性、ミスヒットへの強さを獲得できたのです」(テーラーメイド ハードグッズプロダクト担当・田中桂氏)
この構造は、ジェイソン・デイやダスティン・ジョンソンが使用して多くの勝ち星を挙げたスパイダーの第二世代、「スパイダー ツアー」でも基本的には変わらず、その高いパフォーマンスはツアーで証明され続けてきた。
構造的に変化したのは、2019年モデルの「スパイダーX」からで、それは最新の「スパイダー ツアーX」にも受け継がれた。従来モデルから重くなったスチールフレーム、軽量なカーボンコンポジットソールを採用することにより、よりMOIを高めるモデルとなった。

シェフラー、マキロイらが使う「スパイダー ツアーX」を分解すると中央に大きな空間がある。コンパクトヘッドながらMOIを高める一因だ
「ソールプレートを外してみるとわかるように、カーボンソールの中は空洞です。この構造がMOIの向上に大きく寄与しています。フリートウッドが使う『スパイダー ツアー』がMOI約6kg・㎠、マキロイらが使う『スパイダー ツアーX』でも同約5kg・㎠と高い値を確保しています。ただ、空洞化によってMOIが上がる一方で、打球音が高くなるデメリットも抱えてしまう。その解消のために、樹脂系のインサートに加え、フェースの打点裏に専用のポケットを作り、テーラーメイド独自の振動吸収材『HYBRAR ECHO』を設置。これにより、世界のトップ選手も満足するフィーリングも実現しています」(田中氏)

トミー・フリートウッドはMOIが大きめの「スパイダー ツアー」にチェンジし、2025年の年間王者のタイトルを手繰り寄せた
長年ブレードパターの打感に慣れ親しんだシェフラーのような選手が、「スパイダー ツアーX」にスイッチしてすぐに結果を出せる理由のひとつだろう。
POINT2 転がりの良さ
スパイダーには初代からフェースインサートが採用されている。かつては「AGSI+」、現在は「ピュアロール」へと変化したが、一貫している目的は、インパクト直後のスキッド(横滑り)を抑え、“いち早く順回転”させることだ。
「ピュアロールには、ソフトな打感、打音を生むメリットもありますが、より大きな目的はボールにトップスピンを与えることです。“打った瞬間から順回転”、ここを目指しています。パターにもロフト角があるため、インパクト後に着地とバウンドを繰り返したのち、転がっていきますが、地面を転がるボールは必ず順回転なわけです。ここで強い順回転を起こせれば回転軸はより安定します。自転車が速度を増すにつれて走行が安定するのと同じことです」(田中氏)

いち早く順回転を生み出すインサート「ピュアロール」(写真はスパイダーZT)
ピュアロールに施されている横方向の溝は、インサートの奥からフェース面に向かって斜め下向き45度の角度がついている。これによりインパクト時にボールに触れる部分(溝と溝の間)がいったん下方向にたわむが、すぐに素材の復元力で元の位置(上)に戻ろうとするアクションを起こす。ボールのカバーを下から上にこすり上げられ、インパクト直後にフェースから離れたボールは、下から上の回転、つまりトップスピンがかかるという仕組みだ。
「ピュアロールは、バックスピンが入りやすいダウンブロー気味のストロークでも、極力トップスピンになるように設計されています。カップやスパット(目標)に向かって強く真っすぐ転がりやすくなり、方向性も良くなる。結果、カップインの確率が上がる。このメリットは誰もが体感できると思います」(田中氏)
POINT3 アライメント(エイム)の取りやすさ
1.5メートルぐらいの距離を高確率で沈める。これがスパイダーの大きな強みであり、ツアープロからも絶大な信頼を得る理由だ。先の2つのポイントに加え、ショートパットの確率を上げる鍵となるのが、アライメントの取りやすさだ。
現在、「スパイダー ツアーX」に採用されているのは、「トゥルーパス アライメント」というサイトライン。目の錯覚を利用して、フェースの向きとストローク軌道を自然に一致させる設計で、特にショートパットにおいて絶大な効果を発揮する。

「スパイダー ツアー」シリーズに採用されている「トゥルーパス アライメント」
「選手によっては、マキロイのように1本のサイトラインや、またダスティン・ジョンソンのように、サイトラインがないものを好む場合も。ただ、感覚に頼らず、マシンのように打ちたいのであれば、最新のトゥルーパス アライメントは非常に優れていると確信しています。一方で、かつての白いヘッド(スパイダー ゴースト)や赤いヘッド(スパイダー ツアー レッド)といったカラーリングも、我々はアライメントのひとつと考えています。芝の緑色とのコントラストによって構えやすい、あるいは残像効果によってストロークのガイドになるという面もあります」(田中氏)
“構えやすさ”という感性が強く作用する部分にも、研究と実験、そして多くのトッププレーヤーからのフィードバックを生かし、スパイダーは明確な答えを導き出している。
「スパイダーZT」に存在する“プラスワン”の性能
上記3つのポイントを備えつつ、従来とはコンセプトの異なるスパイダーとして人気なのが、最新モデル「スパイダー ZT」だ。ZTは今流行りのゼロトルクの頭文字。シャフトがヘッドの重心の極めて近い部分に挿さっていることで、ストローク中に重心に引っ張られることで起こるトルク(ヘッドを回転させる力)が発生しないモデルだ。

スパイダーの最新モデル「スパイダーZT(ズィーティー)」。Spider、そして蜘蛛のマークも一新された
「テークバックでフェースが開こうとする力、またインパクトにかけてフェースが閉じようとする力が発生しないのが、スパイダーZT。3パットが多く1ラウンドで40パットはざら、という人の平均点を上げる。あるいは、いろんなパターを使った結果、混乱している上級者の感覚を一度リセットする。そんな効果が期待できるモデルです。前述のスパイダー ツアーXは、3つのネックタイプがあり、ストロークの癖によって最適なものが選べるようになっていますが、スパイダーZTはストロークの癖を考えなくていい、ある意味、オールマイティなパターです」(田中氏)
「スパイダーZT」は、“ヘッドが真っすぐ動きやすい”という意見をよく聞くが、それは特長の50%の部分でしかない田中氏は言う。

直線的に動かすタイプ、アークを描くタイプといったストロークの癖を選ばず、つねにヘッド軌道に対してフェース面が直角になるのが「スパイダーZT」の強み
「スパイダーZTの大きな利点は、ストロークが直線に近くても、アークが強かろうが、そのヘッド軌道に対して“フェース面が常に直角になる”ということ。ヘッドの重心特性によって“ちょっと開いた”“少し閉じた”ということが起こらないので、スクエアなインパクトが実現しやすくなります」(田中氏)
スパイダーの進化は、単なる形状変更や素材刷新にとどまらない。ツアーで実証されたデータと選手のフィードバックをもとに、精密なロジックとして体系化されている。
打点ブレに強く、転がりが安定し、正確なアライメントを導く——。その積み重ねが、いまの“スパイダー=勝てるパター”という揺るぎない評価を築いている。
スパイダートリビア① 初めてメジャーで勝った「スパイダー」はブレードタイプだった

2013年、全米オープンを制したジャスティン・ローズが使っていたのが 、ブレードタイプのスパイダーだった
重心が深く、慣性モーメントに優れるスパイダー。しかし意外にもスパイダーに初のメジャー制覇の栄冠をもたらしたのは、ブレードタイプだった。2013年の全米オープンでジャスティン・ローズが使った「スパイダー ブレード」がそれだ。わずかにトウヒールの後方が出っ張っており、そこにスパイダーらしさを醸すモデルだ。ブレードではないが、その後も、そういったプレーヤーのニーズに合わせて操作感のある“前重心系のスパイダー”も存在する。「スパイダー FCG」、最近では「スパイダー ツアーV」、「スパイダー ツアーZ」といったモデルがそれにあたり、コリン・モリカワやネリー・コルダらが、ブレードタイプと併用するケースも見られる。

コリン・モリカワが一時使っていた「スパイダー FCG」。FはFront、つまり前重心モデルのスパイダーということだ
スパイダートリビア②「やっぱりでっかいスパイダーが好き!」というニーズにも応える

大きさや重心位置など、さまざまなプレーヤーのニーズに応えてきた
2008年に誕生した初代スパイダーは個性あふれる形状とともに、その大きさも話題となった。しかし、「もう少し小さいほうが扱いやすい」というプレーヤーニーズに合わせ、現在の「スパイダー ツアーX」のサイズの元にもなっている「スパイダー イッツィー ビッツィー」へと小型化が図られた。しかしながら、「やっぱり大きいほうがいい」というプレーヤーも存在するため、あえて大きなヘッドのモデルも登場させている。レフティのブライアン・ハーマンは、長年「スパイダー OS CB」を使い、2023年の全英オープンを制覇。それ以前にも、「スパイダー ダディ ロング レッグス」が発売された。あらゆるニーズに応えるのも、またスパイダーの特徴と言える。
【次回予告】第3回は、解析器を使いながらのテストで、最新スパイダーの本当の性能を明らかにしていきます。
PHOTO/Tomoya Nomura、Yoshihiro Iwamoto、Getty Images
				
				


