
マイケル・マナビアン(Michael Manavian)
『ギアーズ』の専門家としての精密なスウィング分析とフィットネス、クラブフィッティング、栄養学など包括的なアプローチで知られる全米有数のゴルフコーチ。スタック&チルト(Stack & Tilt)認定インストラクターとして、多くのツアープロの勝利に貢献している。元トップボディビルダーとしての一面も持ち、現在でもドライバーで300ヤード近いキャリー飛距離を持つ。
マイケル・マナビアン氏は、スタック&チルトの認定インストラクターとして、アレックス・チェイカ、トム・パーニス ジュニア、チャーリー・ウィーなど現在も多くのツアープロの指導を行っている全米でも有力なコーチだ。
解析システム「ギアーズ(GEARS)」のスペシャリストであり、日本でいち早く「ギアーズ」を導入した宮崎太輝プロの師匠でもある。また、かつては全米クラスのボディビルダーであったことも知られており、栄養学にも詳しいユニークなキャリアを持っている。
コヤマ:あなたとスタック&チルトとの出合いを教えて下さい。
マイケル:2011年頃です。すでにゴルフのプロとして活動していて、当時はFacebookが定着していた時期で様々なゴルフのコミュニティができていました。その時に「フラットレフトリスト」について議論しているグループがありました。それがスタック&チルトだったんです。

マナビアン氏が描いたスウィングモデルのイラスト
コヤマ:「フラットレフトリスト」は、ホーマー・ケリーの著書『ザ・ゴルフィングマシーン』に出てくる概念ですね。
マイケル:そうです。『ザ・ゴルフィングマシーン』をもとにスウィング理論を研究し、体系だった学問として確立したのがスタック&チルトです。
かつて、90を切れなかった私の友人がスタック&チルトを学んで、数年後には「65」で回ったのを見て驚いたのを覚えています。
以来、創始者のアンディ・プラマーやマイケル・ベネットのもとでスタック&チルトについて学びました。
コヤマ:「ギアーズ」を早くから活用されていますね。
マイケル:2014年から導入しています。「ギアーズ」を使うことで多くのデータを蓄積することができます。
DIKWピラミッドの概念を知っていますか? 膨大な「データ(Data)」があり、それが「情報(Information)」となり、「知識(Knowledge)」となり、「知恵(Wisdom)」となります。
我々は個々のゴルファーのデータを集積し、それを「分析(Insight)」することで、体系だったゴルフ上達の知恵にしていくのです。
コヤマ:最近までこうした分析システムはありませんでした。
マイケル:我々の世代は知識を得るために、図書館に行って本を読んだり、有名なコーチに話を聞くために、何百マイルも移動して会いに行きました。
そしてそれらが合っているかを実証するためにすべて実践しました。多くの勝利を得ていたコーチたちの持っているデータは正しく、情報と知恵もまた正しいことがわかりました。
「ギアーズ」はクラブの動きや体の各部の動きがすべてわかりますが、私達は「ギアーズ」を導入する前から、どの関節がどれだけ動けばいいかという知見をすでに得ていたんです。「ギアーズ」で計測することで、それが正しかったことを裏付けることができました。
コヤマ:スタック&チルトは、日本では“左一軸打法”と呼ばれています。
マイケル:左軸で打つわけではありません。体の中心である骨盤、胸の中心、肩の中心が積み木のように縦に揃って、崩れないことが大切です。“スタック”とは積み重ねることなんです。

宮崎太輝プロとともに「スタック」の説明をするM・マナビアン
コヤマ:“チルト”は傾きです。体をターゲット方向に傾けて左体重にするものだと思っていましたが……。
マイケル:あくまでも積み木のように“スタック”された体の中心を維持することが大切です。
右利きゴルファーの場合、アドレスした時点で右肩は左肩よりも少し低くなります。よく言われているように、そこから水平に体を回転するとかえって頭が大きく動きます。
脊柱を真ん中に、骨盤から体の中心を積み重ねて頭を中心に保つには、バックスウィングでは体の左への傾き(側屈)が必要になります。これが“チルト”です。解剖学的に頭を中心に保つにはこれが唯一の方法です。体を積み重ねるための傾きなのです。
スタック&チルトではこのことを20年前に確立していましたが、今でも肩を水平に回せというコーチは少なくないですね(笑)
コヤマ:実は日本のゴルフダイジェスト社から2012年に『スタック&チルト』という翻訳本が出ています。
マイケル:(タイガー・ウッズのイラストが書かれた表紙を見て)この本は知らなかった。アメリカでも、タイガーがスタック&チルトをやっていると誤解されているんです。彼のケガの原因だという人までいます。
コヤマ:この本のあとがきにも、「タイガーがスタック&チルト理論を実践していることは歴史の必然」と書かれていますが……。
マイケル:タイガーには、かつて4人のコーチがいました。ブッチ・ハーモン、ハンク・ヘイニー、ショーン・フォーリー、クリス・コモの4人です。その誰もがスタック&チルトのインストラクターではありません。
タイガーは82勝しました。そのうちスタック&チルトのコーチがかかわった勝利は一度もない。だけど、タイガーのケガはスタック&チルトが原因と言われるんだ。
スタック&チルトはタイガーの勝利にもケガにも関係していないんです。
コヤマ:世界的に誤解があるようですね。
マイケル:私たちはこうあるべきというスウィングモデルをもってコーチします。モデルを持っていれば、安定させたり不調から脱却したり、良い方法を提案するための指針になります。それは、そのゴルファーによって変わるものなのです。
例えば、我々は基本的にプッシュドローを打ちたいと思っているけど、選手によってはカットボールが打ちたいという人もいる。その選手にはカットが打てるようにコーチします。
これらの様々なスウィングモデルを実現するためのシステムが、スタック&チルトなんです。三次元で解析して構築したゴルフ上達のためのシステムです。
コヤマ: スウィングのやり方というよりも、それを実現するための理論体系なんですね。
現在、横浜のブランタゴルフ(横浜スポーツコンプレックス内)をはじめ、本場のスタック&チルトを学んだコーチのレッスンを受けられる施設が国内にも存在する。現在もアメリカで確かな実績を持つスタック&チルトに、改めて取り組んでみるのもいいだろう。

