過酷な移動トラブルと、ジョン・ラームの“男気”

LIVゴルフ・香港で2日目を終え、3位に位置するトーマス・デトリー(写真は25年全米OP、撮影/岩本芳弘)
「ほんの数日前、僕は中東で完全に足止めを食らっていたんだ」
アメリカがイスラエルと共に2月28日、イランに対して「大規模な戦闘作戦」を実施したことに端を発する中東エリアでの移動トラブルだった。デトリーはUAE(アラブ首長国連邦)の国境付近で足止めされ、火曜日の朝の時点では、香港行きのフライトの目処が全く立っていなかった。
「あの時は本当に『香港でティーアップできる可能性はゼロだ』と思っていたよ。水曜日の朝のフライトを予約してはいたけれど、それが飛ぶ保証なんてどこにもなかったからね」
絶望的な状況下で、彼に救いの手を差し伸べたのが、他でもないジョン・ラームだった。
「ジョンが手配してくれた飛行機に乗せてもらうことができたんだ。あの不確実な状況下で、飛行機を用意してくれたジョンの寛大さは信じられないほどだよ。彼には本当に感謝している」
ラームのプライベートジェットに乗させてもらうというウルトラCで、デトリーは奇跡的に水曜日の朝、香港に降り立つことができたのだ。
現在、その恩人であるラームとは、奇しくもリーダーボードの上位で直接対決を演じている。「彼は今、僕のすぐ後ろ(順位)にぴったりとくっついているね。彼に飛行機代を返さないといけないから、僕もなんとか良いプレーをして稼がないといけないよ(笑)」と、デトリーはユーモアたっぷりに語った。
怪我の功名。「練習しないこと」がもたらした最大のメリット
水曜日の朝に到着したデトリーには、事前の練習ラウンドを行う余裕など全くなかった。しかし、この「ぶっつけ本番」の状況が、彼に思わぬ好作用をもたらしたという。
「先月のアデレード大会の後、コーチと良い練習ができていたんだけど、実は先週の土曜日から全くクラブを握っていなかったんだ」
プロゴルファーにとって、試合前に数日間もクラブを握らないというのは通常あり得ないことだ。しかし、今回は違った。
「中東でのトラブルのおかげで、強制的にクラブを置いて休むことになった。それが逆に、良い副作用をもたらしてくれたんだよ」
移動の疲労とストレスで限界に達していた身体と心を、ゴルフから完全に切り離してリセットした「空白の48時間」。それが結果として、初日からのリラックスした好スコアに直結した。
「椅子に座りっぱなしで体がどう反応するか心配だったけれど、ジムで少し体を動かしてフィジオ(理学療法士)のケアを受けたら、すごく良い状態になったんだ」
事前の打ち込みよりも、心身のフレッシュさを保つことが、特異な環境下では何よりの武器になることを彼は証明してみせた。
「LIVでの生活は人生を変える」盟友と共に迎える週末
波乱万丈の数日間を乗り越え、デトリーの表情は今、この上なく明るい。
「LIVでの生活は、正直に言って人生を変えるものだよ。ドバイとロンドンを行き来する僕のライフスタイルに完璧にフィットしているし、昔DPワールドツアーで色々な国を旅していた頃を思い出して、とても楽しいんだ」
そして何より、ベルギー代表として共に戦ってきた親友、トーマス・ピータースと同じチームで戦えることが最大の喜びだという。
ラームの男気に救われ、トラブルをエネルギーに変えたトーマス・デトリー。ダスティン・ジョンソン率いる「4Aces」の新たなピースとして、ドタバタ劇を乗り越えた男が週末の香港でどんな結末を描くのか、そのドラマから目が離せない。
