3月29日に最終日を迎えた「アクサレディス」。その最終18番ホールにおいて、永峰咲希と優勝争いをする申ジエが第3打の直前に競技委員を要請した裁定が、SNSなどで「左打ちで救済を受けることができるの?」「ルールの悪用ではないか?」と物議を醸した。この異例の裁定について、田辺裕子競技委員長に、その判断が妥当だったかどうかを聞いた。

なぜ左打ちを選択し、右で打ち直したのか

問題の場面は、最終18番(パー5)、申ジエが首位の永峰を1打差で追う第3打地点だ。申の2打目はフェアウェイ左の傾斜(ラフ)に止まっていた。第3打を打とうと右打ちでアドレスを試みたが、急な傾斜によりスタンスが取れなかったため、彼女は右利き用のクラブを裏返して「左打ち」を選択した。

しかし、左打ちのスタンスを取ろうとすると、今度は足がカート道(動かせない障害物)にかかってしまう。そこで彼女は、規則に基づく無罰の救済を求めたのだ。

画像: 申ジエが選択した左打ちが妥当か協議された(撮影/岡沢裕行)

申ジエが選択した左打ちが妥当か協議された(撮影/岡沢裕行)

現場に到着した2人の競技委員は、約10分間に及ぶ状況確認を行い、申ジエの左打ちの選択が「明らかに不合理ではない」と判断し、救済を認めた。

申はカート道からの救済を受けてボールをドロップ。すると、救済を受けた新たな地点からは通常の右打ちでアドレスが取れる状況になったため、結果的に右打ちで第3打を放ち、見事にグリーンオンさせたのである。

画像: ドロップする申ジエ(撮影/岡沢裕行)

ドロップする申ジエ(撮影/岡沢裕行)

「不合理なストローク」の境界線

ゴルフの規則では、右利きの選手が左打ちを選択してスウィング(ストローク)を行うこと自体は個人の自由である。しかし、コース上の動かせない障害物から「無罰の救済」を受けるという条件が加わった場合、そのストロークの選択が「明らかに不合理なストローク」を用いたものであってはならないと、規則(裁定集)に定められている。

通常の右打ちでも打てる状況であるにもかかわらず、「カート道にスタンスをかけて無罰の救済を受け、今の悪いライから逃れたい」という利益を得る目的“だけ”で不自然に左打ちを選択した場合、それはルールの悪用とみなされ、救済は認められない。

一方で、今回の申のように「右打ちで立てないような急斜面などの状況」があり、「左打ちを選択することが最善の方法である」という合理的な理由がある場合、その左打ちは正当な選択とみなされる。その合理的なスタンスを取った結果としてカート道が邪魔になるのであれば、無罰の救済を受けることができるのだ。

画像: 2打目が止まった地点でアドレスを試みる申ジエ(撮影/岡沢裕行)

2打目が止まった地点でアドレスを試みる申ジエ(撮影/岡沢裕行)

確認に10分を要した競技委員の“真意”

現場で対応した2人の競技委員とトランシーバーでやり取りした田辺競技委員長は、この確認作業についてこのように説明した。

「右で打とうとすると立てないぐらいの傾斜だから、左打ちにしたほうがいいという選手の意見が合理的かどうかの確認を行いました」

画像: 第2打は〇で示した辺りに止まり、申は右打ちで立てなかったという(撮影/岡沢裕行)

第2打は〇で示した辺りに止まり、申は右打ちで立てなかったという(撮影/岡沢裕行)

競技委員が状況確認におよそ10分という時間を要したのは、この左打ちの選択が「悪いライから逃れること」”だけ”を目的とした不合理な選択ではないことを証明するためだった。

「なんで左打ちをするのか、ドロップして救済を受けたいだけなのか。その疑念を払拭する必要がありました。選手がルール通りにやったとしても、ギャラリーやテレビ視聴者、見ているゴルファーの方に納得してもらいたかったんです」と、田辺競技委員長はその確認に時間をかけた理由を話した。

この10分間は、選手が自らのストロークの合理性を説明し、競技委員がルールの悪用がない事実を客観的に担保するために行われた、不可欠な時間だったのである。

画像: 3打目を右打ちでグリーンオンし、バーディパットにかけたが、永峰が先にバーディを奪い、30勝目を逃した(撮影/岡沢裕行)

3打目を右打ちでグリーンオンし、バーディパットにかけたが、永峰が先にバーディを奪い、30勝目を逃した(撮影/岡沢裕行)

関連するルールの条項(R&A USGA「ゴルフ規則オフィシャルガイド」より)

詳説16.1a(3)/1 – 異常なストローク方法で障害物が障害となるときにも救済を受けることができる場合がある プレーヤーは与えられた状況に対応するため、場合によっては自分の球をプレーするときに異常なスウィング、スタンス、あるいはプレーの方向を選ばなければならないことがある。その異常なストロークがその与えられた状況において明らかに不合理ではない場合、そのプレーヤーは規則16.1に基づいて罰なしの救済を受けることが認められる。 例えば、ジェネラルエリアで、右利きのプレーヤーの球がホールの左側の境界物の近くにあったので、そのプレーヤーはホールに向けてプレーするために左打ちのスウィングを行わなければならなかった。その左打ちのスウィングを行うとき、動かせない障害物がそのプレーヤーのスタンスの障害となっていた。 この状況において、左打ちのスウィングを用いることは明らかに不合理ではないので、そのプレーヤーはその動かせない障害物からの救済が認められる。

詳説16.1a(3)/2 – プレーヤーは状態からの救済を受けるために明らかに不合理なストロークを用いることはできない プレーヤーは異常なコース状態からの救済を受けるために明らかに不合理なストロークを用いることはできない。そのプレーヤーのストロークが与えられた状況に明らかに不合理な場合、規則16.1に基づく救済は認められず、そのプレーヤーはその球をあるがままにプレーするか、アンプレヤブルの球の救済を受けなければならない。 例えば、ジェネラルエリアで、右利きのプレーヤーの球が悪いライに止まった。近くにあった動かせない障害物はそのプレーヤーの通常の右打ちのストロークには障害とならないが、左打ちのストロークには障害となっていた。そのプレーヤーは次のストロークを左打ちで行うつもりであることを述べ、そうした左打ちのストロークではその動かせない障害物が障害となるので、規則16.1bの救済が認められると考えていた。 しかしながら、そのプレーヤーが左打ちのストロークを用いる唯一の理由は救済を受けて悪いライから逃れるためであり、その左打ちのストロークは明らかに不合理であるので、そのプレーヤーは規則16.1bに基づき救済を受けることは認められない(規則16.1a(3))。 同じ原則が、明らかに不合理なスタンス、プレーの方向、あるいはクラブ選択を用いることにも適用される。


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