オーガスタナショナルGCには、気まぐれな魔女が棲んでいると言われる。その魔女は、時に残酷な試練を突きつけ、時として奇跡のような慈悲を与える。2026年の「オーガスタナショナル女子アマチュア(ANWA)」最終日、その魔女の存在を改めて感じさせるドラマが繰り広げられた。

スピースやタイガーも翻弄された魔女が棲むパー3

画像: Maria Jose Marin。コロンビア出身。アーカンソー大学在学中の19歳

Maria Jose Marin。コロンビア出身。アーカンソー大学在学中の19歳

逆転で栄冠をつかんだのは、コロンビア出身のマリア・ホセ・マリン。そして、首位でスタートしながらも逆転を許したアスタリスク・タリー。勝敗を分けたのは、アーメンコーナーの象徴、12番ホールだった。

オーガスタの12番ホール。今回の設定はわずか145ヤードという短いパー3だが、世界最高のプレーヤーたちをも震え上がらせる場所としてあまりにも有名だ。

記憶に新しい「悲劇」は、2016年のマスターズ。連覇に王手をかけていたジョーダン・スピースが、このホールでまさかの池に2発打ち込み「7」を叩いて自滅した。さらに2020年には、タイガー・ウッズが3度も池に入れて「10」というスコアを記録したこともある。

画像: 1992年マスターズ最終ラウンドのフレッド・カプルス。12番パー3でティーショットが池に落ちたと思われたが……

1992年マスターズ最終ラウンドのフレッド・カプルス。12番パー3でティーショットが池に落ちたと思われたが……

一方で、魔女が微笑むこともある。1992年のマスターズ最終日、フレッド・カプルスが放ったショットはグリーン手前の傾斜を転がり落ち、誰の目にも池に入ると思われた。しかし、ボールは奇跡的に急斜面の芝の上でぴたりと静止。そこから寄せワンでパーをセーブしたカプルスは、そのまま5年ぶりにアメリカ勢としてグリーンジャケットを奪還した。

画像: 実際のカプルスのボール。奇跡的に池を逃れた

実際のカプルスのボール。奇跡的に池を逃れた

「神様がボールをつかんでいた」、34年前の再現が勝敗を分けた

そして2026年、女子アマチュアの頂点を決める戦いでも、34年前のカプルスと全く同じ光景が再現された。逆転優勝を狙うマリア・ホセ・マリンが12番で放ったショットもまた、通常なら重力に従って池へ吸い込まれるはずの傾斜地で、魔法にかかったように止まったのだ。

優勝後のインタビューで、マリンはその瞬間をこう振り返っている。

「今週、自分がチャンピオンになれると感じたサインの一つは、12番のバンクでボールが止まったことでした。あんな場所にボールが止まるなんて、私はこれまで一度も見たことがありませんでした。まるで神様が『動くな、これは何かのために起きているんだ』と、その手でボールをつかんでいてくれたようでした」

このパーセーブが、彼女に「今日は自分の日だ」という確信を与えた。対照的に、前半完璧なゴルフを展開していたアスタリスク・タリーは、この12番で奥のバンカーから2度池に落とし「7」。首位の座を明け渡すこととなった。

画像: 首位スタートのアスタリスク・タリーは12番パー3でまさかの「7」。オーガスタの怖さを改めて思い知らされた

首位スタートのアスタリスク・タリーは12番パー3でまさかの「7」。オーガスタの怖さを改めて思い知らされた

オーガスタを勝ち切る「セオリー」

現地でこの激闘を目の当たりにした横田英治プロは、マリンの勝利が単なる幸運ではなく、オーガスタのセオリーに則ったものだったと分析する。

「私はマスターズを毎年、約40年見てきました。そこで長らく語られてきたセオリーは、アウト(前半)は2番、8番のパー5でできればバーディを取り、他をいかにパーで耐えるか。そしてバックナインは、10、11、12番をしのいで、13番からのバーディホールにつなげるか、ということです」

今回のマリンのプレーは、まさにこれを体現したものだった。

「マリン選手も、10番で5メートルほどの長いパーパットを沈め、11番をしのぎ、そして12番で奇跡のパーを拾ったことで、13番のバーディにつなげました。12番のティーショット時は、ホールインワンでも起きたのかと思うほどの歓声がコースに響き渡りましたが、オーガスタのパトロンたちは勝負のアヤをよく知っています。マリン選手に傾いた流れを、彼らも肌で感じたのでしょう」

新女王を支えた、力強いスウィングの秘密

オーガスタの女神がほほ笑んだマリア・ホセ・マリン。しかし、彼女がこの幸運を呼び込めたのは、プレッシャーのかかる場面でも決して崩れない卓越した技術があったからこそだ。コロンビア出身の20歳、NCAAチャンピオンという実績を持つ彼女のスウィングには、どんな特徴があるのだろう。同じく横田英治プロに解説してもらった。

画像: アドレス:手首、ひじ、肩といった関節がリラックス

アドレス:手首、ひじ、肩といった関節がリラックス

「まず目にとまるのはアドレスです。手首、ひじ、肩といった上体の関節が非常にリラックスしており、重心が下がりどっしりとした安定感があります。

画像: テークバック:ノーコックで体の回転を重視

テークバック:ノーコックで体の回転を重視

テークバックはノーコック。ノーコックは時としてダウンスウィングでクラブのリリースが早くなることもありますが、そこで生きてくるのが上体のリラックス感です。

画像: ダウンスウィング:切り返しでクラブを鞭のようにしならせて深いタメを作る

ダウンスウィング:切り返しでクラブを鞭のようにしならせて深いタメを作る

これにより切り返しで鞭がしなるように一気にタメが深くなります。インパクト直前までタメを深くキープし、それが解放されることで大きなパワーが出力されるのです。

画像: インパクト直前:ここでもまだ深いタメをキープ。頭を残し、振り遅れを防いでいる

インパクト直前:ここでもまだ深いタメをキープ。頭を残し、振り遅れを防いでいる

一方で振り遅れを招きやすい深いタメですが、彼女はインパクトゾーンで頭が残った『ビハインド・ザ・ボール』の形ができており、最大の遠心力を生み出しています。インパクトからフォローにかけては、その遠心力に対してハンマー投げの選手のように背中との引っ張り合いができており、小柄な体でも大きな飛距離を可能にしています。

画像: フォロースルー:クラブヘッドと背中で引っ張り合う

フォロースルー:クラブヘッドと背中で引っ張り合う

今の世代は、進化した道具を最大限効率よく使うこと、つまりスウィング軸をブラさずに回転スピードを上げるスウィングを小さい頃から学んできている。優勝したマリン選手のスウィングもこの流れの中にあります」

オーガスタで生まれた新たな女王。彼女の強さは、魔女の微笑みを引き寄せる「運」と、それを結果につなげる「スウィングの効率性」の両輪に支えられていた。

「母国で見てくれている小さな女の子や男の子たちに、インスピレーションを与えることが私の大きな目標です。諦めずに努力を続ければ、オーガスタのような聖地に辿り着けるのだということを示したかった。ここは携帯電話さえ持ち込めない、今この瞬間の記憶を刻むための特別な場所です。その歴史の一部になれたことを、誇りに思います」(マリン)

画像: 「勝利の鍵だった」というのが、地元の消防士でもあるキャディのダレンさん。「『呼吸して、落ち着いて。大丈夫、なんとかなる。自分にチャンスを与えてあげて。何も起きていないよ、顔を上げて』と声をかけてくれました。彼の励ましの言葉の一つひとつが、今日の勝利と、目標に集中し続ける助けになったと思います」

「勝利の鍵だった」というのが、地元の消防士でもあるキャディのダレンさん。「『呼吸して、落ち着いて。大丈夫、なんとかなる。自分にチャンスを与えてあげて。何も起きていないよ、顔を上げて』と声をかけてくれました。彼の励ましの言葉の一つひとつが、今日の勝利と、目標に集中し続ける助けになったと思います」

確かな技術とともに、オーガスタの魔女が送った微かなサインをつかみ取ったマリア・ホセ・マリン。新たなスターが誕生した瞬間、聖地は惜しみない拍手に包まれた。

PHOTO/Yoshihiro Iwamoto


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