
連覇したので前年優勝である自分から自分へジャケットは着せられない。マスターズ委員会のリドリー会長にグリーンジャケットを着させてもらうローリー・マキロイ(撮影/岩本芳弘)
12番パー3:トム・ワトソンからの「金言」
数々のドラマを生んできたアーメンコーナーの12番(パー3)。マキロイはこのプレッシャーのかかる場面で見事なバーディを奪い、優勝への足がかりを固めた。
この一打の背景には、あるレジェンドからの教えがあった。
「2009年にトム・ワトソンと一緒に練習ラウンドをした時、彼が12番のティーイングエリアで教えてくれたんです。『風を感じるまで待て。そして、吹くべき方向からの風を感じたら、すぐに打つんだ』と」
ティーに立った時、風は右から吹いているように感じた。しかしマキロイは焦らず、じっと正しい風が吹くのを待った。そしてタイミングを見計らい、「9番アイアンで完璧なスリークォーターショット」を振り抜いたのだ。過去の偉大なチャンピオンから受け継いだ教訓が、彼に貴重なバーディをもたらした。
13番パー5:待ち時間を逆手に取った心理戦
続く13番(パー5)、マキロイはティーショットをフェアウェイに運んだが、ここで予期せぬアクシデントが起こる。同組のキャメロン・ヤングがルール上の確認で、競技委員との話し合いを始めてしまったのだ。
緊迫した優勝争いの中での長い待ち時間は、選手のリズムを狂わせる。しかし、マキロイは冷静だった。「ボールのところへ行って永遠に待ち続けるのではなく、キャム(ヤング)が戻ってくるまでずっと後方で待機することにしたんです」とマキロイは明かす。
「あそこのセカンドショットは決して得意な状況ではないので、ボールのそばに立って、長い間ピンを見つめ続けるのは避けたかった」
あえて自分のボールに近づかず、嫌なイメージを膨らませないようにする。この卓越したセルフコントロールにより、彼はリズムを保ち、このホールでもバーディをもぎ取った。
15番パー5:緻密に逆算された「108ヤード」へのレイアップ
15番(パー5)、マキロイのプレーにはオーガスタ特有の緻密な計算と危機回避能力が凝縮されていた。ティーショットを右の林に打ち込んだ彼は、2打目で無理にグリーンを狙わず、ピンまで「108ヤード」を残すレイアップを選択した。
なぜ、あえてその距離だったのか。そこには明確な理由があった。
「107ヤードか108ヤードを残して、100ヤードほどキャリーさせるようにレイアップしました。風に乗せて打つ、スリークォーターのロブウェッジに完璧な距離ですから」
下り傾斜から非常に硬いグリーンに向かって打つ第3打。もし中途半端に短い距離を残してしまうと、ウェッジのショットがグリーンをこぼれて奥へ抜けてしまう危険がある。そのため、しっかりとスピンをコントロールできる距離(108ヤード)をあえて残したのだ。
そして迎えた池越えの3打目。風と傾斜の影響でボールは想定よりもキャリーが出ず、あわや手前の池に転がり落ちるかというヒヤリとするショットになったが、計算されたスピンによってグリーン手前のエッジ付近でボールは踏みとどまった。緻密な逆算によって最悪の事態を免れた彼は、この難局を見事にパーでしのぎ切ったのである。
土曜ラウンド後のレンジセッション:勝利を呼んだ自己修正
そして何より、最終日に彼が最高のアイアンショットを打てたのは、土曜日のラウンド後に行った修正のおかげであった。
第3ラウンドを終えた後、マキロイは自身のスウィング軌道が「インサイドから入りすぎており、クラブが右に出すぎている(ドローが強すぎる)」ことを察知した。もしそのまま下半身の動きを止めてしまえば、ボールは左へ大きく曲がってしまう。
「ラウンド後の練習場では、インパクトに向けて下半身を素早く開く動きに集中し、カットショットをたくさん打ち込みました。そうすることでクラブフェースの挙動が安定し、よりニュートラルな弾道を打てるようになったんです」

約20センチのウィニングパットを残すマキロイはグリーン外で顔を隠した。勝利を確信し、このとき涙をぬぐうようなしぐさもあった(撮影/岩本芳弘)
この見事な自己修正能力こそが、最終日のキレのあるアイアンショットを生み出した。技術、メンタル、そして経験。すべてを総動員して掴み取った、歴史に名を残すマスターズ連覇であった。
