新たなヒロインの誕生
昨年は、第3戦「アクサレディス」での工藤遥加選手の初優勝から始まり、そこから年間女王にまで上り詰めた佐久間朱莉選手など多くの初優勝者が生まれました。そして今季も、13戦目にしてついに新たな初優勝者が誕生しました。
「姉のコピーはしたくない。自分のブランドを確立することが大事だと思っている」と優勝会見で彼女が語ったように、プロゴルファー・吉田鈴としてのアイデンティティを確立し、吉田鈴のゴルフを貫くことこそが、ツアーで戦い抜くために必要なのだと彼女のプレーを見て感じました。
今大会は、ランキング上位者が「全米女子オープン」に出場して不在だったこともあり、出場する誰もがそのチャンスを掴もうと試合に挑んでいました。その中で、吉田選手は2週間前の「ブリヂストンレディスオープン」で優勝した入谷響選手と1打差の2位となり、次のチャンスを掴む準備を重ねていました。
その一つが、4月末に変更したパターです。オデッセイのツノ型(ロングネック)のモデルから、丸いマレット形状の「ホワイト ホット OG ROSSIE」へとチェンジしたことで劇的にパッティングが向上したと、オデッセイのツアー担当・小黒駿氏は話します。

4月末にツノ型から丸いフォルムのオデッセイ「ホワイト ホット OG ROSSIE」に変更し、パットが劇的に向上した(撮影/有原裕晶)
ツノ型から丸いフォルムへの変更について、「アライメントがきっちりと出せるツノ型や四角いモデルに比べて、丸いフォルムはストロークが多少ブレても気になりにくいメリットがあります」と小黒氏は言います。ストロークを意識し過ぎずターゲット方向に打ち出すことに集中できると、左脳ではなく右脳を優位にしてパットができるため、この変更がパッティングの改善に直結したようです。
今大会で初コンビを組んだ川口大二キャディは、今季何度か同組になった際に彼女のプレーを見ており、「昨年までとは試合中に打つ球が明らかに変わった」と感じていたそうです。プレーのペース、弾道の強さや番手間の距離合わせ、パッティングなど、全体的にレベルアップしていることを挙げ、トレーニングもかなり積んできていると実感したと言います。
そして実際のプレーにおいても、冷静かつクールに順位の状況やピン位置、ボールのライや距離から逆算して最善の選択ができる頭の良さも感じたと、吉田選手の成長をひしひしと感じながらバッグを担いでいたことを教えてくれました。

体幹の強さが表れた、フィニッシュを抑えたライン出しショット(撮影/有原裕晶)
水曜日に会場入りした吉田選手は、雨だったこともありラウンドはせず、練習場でトラックマンを使いながら2時間ほど58度のウェッジの練習をおこなったとのこと。その姿を見て川口キャディは「良い練習をしている」と感心したと話します。
大会中の天候が雨予報であればコースに出たはずですが、雨がない代わりに風が強い予報が出ていました。海沿いで風の強いコースであることを想定し、ショートゲームの練習に時間を割き、距離の打ち分けや片手打ちなどをみっちりと練習できたことも、大会に臨む準備が完璧にできていたということなのでしょう。
ブレない体で、全身を使って飛ばす
スウィングを見てみると、オーソドックスなスクエアグリップで握り、手元を胸の前にキープしながら早い段階で背中をターゲットに向けており、腕と体の見事な同調が見て取れます。骨盤の幅の中で右へ重心を移動し、しっかりと右脚内側で受け止めながらテークバックしていきます。

オーソドックスなスクエアグリップで握り、テークバックの早い段階で背中をターゲットに向ける(撮影/大澤進二)
小柄なプレーヤーの場合、身長に対してクラブの割合が長くなるため、ややフラットなトップになる傾向があります。身長153㎝の吉田選手もややフラットなトップを取り、インサイドから下ろすスウィングですが、トップからの「切り返し」に注目してみましょう。
バックスウィングの終盤で、すでに左に踏み込んでいることが見て取れます。しっかりと左に踏み込むことで、ダウンスウィングの初期に地面からの反力を使うことができています。切り返し前に左へ重心を移動することで、左を踏み込む準備が整うのです。

バックスウィングの終盤で左へ重心を移動し、左足を踏み込んで切り返す(撮影/大澤進二)
インパクト付近で左足が伸びていますが、地面に対して圧力をかけているのはトップからの切り返しのタイミングです。そうすることで胸は右を向いたまま手元を下ろし、インサイドからクラブを下ろせるようになります。
PGAツアーの選手が、トレーニング用の重さのあるボールをトップの位置から体の右横(または壁)に投げつけるトレーニング動画をSNSで見たことがある人も多いはずです。体幹を緩めずにこの一連の動作をスムーズに行うためにも、トレーニングでの意識付けは非常に重要です。
吉田選手はシーズン中でも体を大きくするようなトレーニングに取り組んでいるといいますから、これだけ体をしっかり使ってもブレない体作りが実を結び、優勝という成果につながったのだと思います。

左に踏み込んでから回転することでクラブをインサイドから下ろし、頭を右に残すことでヘッドを加速させる(撮影/大澤進二)
そこから頭を右に残したまま振り抜き、クラブヘッドを加速させることで、大きく振り抜く力強いフィニッシュへとつながっています。
ツアー7勝の今野康晴プロを師として学んだ様々なエッセンスを自分のものとし、自分の頭で考え、準備してきたことが勝利につながった吉田選手。初優勝とシード権確保にとどまらず、これからの複数回優勝にも大いに期待しましょう。
