渋野日向子や畑岡奈紗ら日本勢も多数出場し、難コースのリビエラCCで最後まで過酷なサバイバル戦が繰り広げられた今年の全米女子オープン。数々のドラマを生んだこの由緒ある舞台で、最後に栄光のトロフィーを高く掲げたのは、世界ランキング1位のネリー・コルダだった。通算8アンダーとし、2位に1打差で逃げ切った劇的な勝利。しかし、その圧倒的な強さを誇る女王の裏側には、華麗なプレーからは想像もつかないほどの「泥臭い」苦悩と、常識外れの大きな賭けが存在していた。
画像: 世界ランク1位のネリー・コルダがシェブロン選手権に続き、メジャーを制覇

世界ランク1位のネリー・コルダがシェブロン選手権に続き、メジャーを制覇

パニックに陥った初日。メジャー中の「グリップ変更」

木曜日の第1ラウンド、コルダは突如として底知れぬパニックに陥っていた。月曜日から水曜日までの練習ラウンドではピュアな球を打てていたにもかかわらず、本番が始まるとティーショットが次々とターゲットの20ヤード右へと曲がり始めたのだ。

「月曜から水曜にかけて何が起こったのか、なぜ突然そうなったのか全く分からない」

深いラフと硬いグリーンが牙を剥くリビエラCCにおいて、フェアウェイキープは絶対条件である。彼女は長年の相棒であるキャディのジェイに対し、「フェアウェイにいないと、このコースでは戦えない」と弱音を吐き出すほど、極限のストレスを抱えていた。

スウィングの不調を立て直すため、コルダはメジャー大会の真っ只中に「グリップの握りを変える」という究極の決断を下す。ゴルファーにとって、トーナメント中にグリップを変更することは“禁じ手”といってもいい。今大会をサポートし、グリップ調整に付き合った姉のジェシカでさえ、「メジャーの最中にグリップを変えるなんて……。心配でほとんど眠れなかった」と呆れ果てたという。

本人にとってもその違和感は尋常ではなく、「打つ前に4回も握り直すほど不快で、『左に30ヤードもフックしてしまうんじゃないか』という恐怖と戦っていた」と振り返る。それでも新しい感覚を信じ、ショートゲームに頼り、バンカーに入れば「目玉にならないで」と祈りながら、泥にまみれてパーを拾い続けた。

重圧を打ち破った「鏡のマントラ」と勝者のメンタリティ

絶不調の中でもスコアをまとめ上げ、トップで迎えた最終日のサンデーバックナイン。無敵を誇る世界1位の彼女でさえも極限の重圧に苛まれていた。「バックナインに入った時、胃の中で様々な感情が渦巻いていた。果たして勝てるのだろうかという疑念も湧いた」と、張り詰めた精神状態を赤裸々に明かしている。

そんな逃げ出したくなるようなプレッシャーを打ち破るため、彼女は最終日の朝、ある行動に出ていた。婚約者からの「もっとポジティブに」という助言や、アルペンスキーの女王ミカエラ・シフリンのメンタルコントロールを取り入れ、コルダは滞在先のバスルームの鏡に、“魔法の言葉(マントラ)”を書き込んだ。

「何が起きようと、それは起こるべくして起こる。ただ100%の力を出し切るだけ」

未来の不確実性を受け入れ、今目の前にある1打に全力を注ぐ。鏡に刻んだこの誓いが、苦しい展開の中でも彼女の心を「今この瞬間」に繋ぎ止める強いアンカーとなった。いまのコルダには揺るぎない「勝者のメンタリティ」が備わっていた。

「自分のゴルフが『B級』や『C級』の状態であっても関係ない。メジャー大会とはそういうものであり、精神的にそこにいられれば勝てる」

歓喜の「アイスクリームの渦巻き」と叶った夢

画像: 17番ホールをバーディとすると思わずガッツポーズをしたネリー・コルダ

17番ホールをバーディとすると思わずガッツポーズをしたネリー・コルダ

その強い決意が、勝負どころの17番ホールで劇的なドラマを生む。非常に速く、大きく曲がる下りのスライスライン。これを絶妙なタッチで見事に沈めてバーディを奪った瞬間、普段は滅多に感情を露わにしないクールな女王が、渾身のダブルガッツポーズを炸裂させた。

「普段はガッツポーズなんてしないけれど、あのパットが何を意味するかは分かっていたから」

【動画】ネリー・コルダ、17番バーディパットを沈めガッツポーズ【LPGA公式X】

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自らを鼓舞する激しいアクションで、勝利を大きく引き寄せた。

そして迎えた最終18番ホール。ウィニングパットとなった約85センチ(2フィート10インチ)は、左からの風と傾斜が絡む嫌なラインだった。重圧で心拍数が跳ね上がる中、これを静かにカップに沈めると、コルダはついに歓喜の涙を流した。会見でこの最後のパットについて問われると、「あんな長いパットを残すなんて、どうかしてるわよね」と笑い飛ばし、複雑に曲がるラインを「1日を締めくくるナイスな『アイスクリームの渦巻き(ice cream swirl)』ね」と、安堵に満ちたユーモアたっぷりの言葉で表現した。

【動画】あわやプレーオフか!? と思われたネリー・コルダの最終パット【LPGA公式X】

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「2013年、シボナックで開催された全米女子オープンで練習場に立ったあの14歳の少女の夢が、今、このトロフィーの隣に座ることで叶ったのよ」

優勝会見の席上、コルダは溢れ出る涙を堪えきれずにそう語った。当時、姉のジェシカが出場する最高峰の舞台を間近で見つめ、「いつか自分も」と強く心に誓ったあの日。自身のプロゴルファーとしての原点とも言えるこの大会で頂点に立つことは、彼女のキャリアにおける最大の悲願であった。

美しいスウィングで他を圧倒するだけが世界1位の証明ではない。絶不調の中でも禁じ手を使って己を立て直し、重圧を自己暗示で跳ね返したタフな精神力。14歳の少女が憧れた景色は今、彼女自身の力によって現実のものとなった。世界1位の称号に相応しい、気高くも人間味あふれる新女王の姿が、リビエラの歴史に深く刻まれた。

写真/USGA

日本勢の活躍は?


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