女子プロたちを襲う「夏の不調」とそれぞれの対策

さまざまな対策を行いながら夏の試合を乗り越える女子プロたち。それでも直近の試合「大東建託・いい部屋ネットレディス」「北海道meijiカップ」では多数の棄権者が出ている(撮影/岡沢裕行、大澤進二)
棄権者が続出する過酷な今夏の国内女子ツアー。2019年以降レギュラーツアーに出場し続け、今季4月の「NTTドコモビジネスレディス」で優勝、その後も好調をキープしメルセデスランク16位につける菅沼菜々は、どのような対策を行っているのか。
「睡眠と水分補給を心掛けても試合後の疲労感が大きく、翌日まで疲れが抜けないこともあるんです。女性特有の鉄不足は食事だけで補うのが難しくサプリで積極的に摂取しています」(菅沼)
さらに凍らせたゼリーで手のひらを冷やすなどの熱中症対策はもちろん、夏でも入浴を欠かさず「疲労を翌日に持ち越さない」意識を強く持っているようだ。
菅沼だけでなく、他のプロたちも独自の対策を行っている。
天本ハルカは、「ラウンド後半になると集中力が続かない」「疲れでよく眠れない」といった不調を感じており、その対策として「酸素水」を愛飲。飲むことで頭の回転が良くなり、睡眠の質も向上していると話す。夏場に体重が落ちやすい青木香奈子も、筋肉の回復効果に期待でき、さらにラウンド中の集中力の低下を防ぐ目的からアミノ酸(BCAA)を入れた経口補水液を摂取しているという。また両者ともレバーやひじき、ほうれん草などの「鉄分」を含む食物を積極的に食べるなど、女子プロたちはあらゆる側面から不調対策を徹底している。
熱中症と似ている? 長引く不調は「鉄不足」を疑え
女子プロたちは熱中症対策だけでなく、夏バテによる疲労の蓄積、集中力の低下にも注意を払っている。実はこのような不調には「鉄不足」が関係していると話すのは、「トータルゴルフフィットネス」の管理栄養士兼パーソナルトレーナー・中島遥氏だ。

トータルゴルフフィットネス:管理栄養士 兼 パーソナルトレーナー
解説/中島遥
神奈川県立保健福祉大学福祉学部栄養学科にて管理栄養士、栄養教諭の資格を取得後、各種アスリートをサポート。昨年までJLPGAでツアー選手をサポート。トータルゴルフフィットネス在籍
中島氏によると、鉄分は体内で酸素を運ぶヘモグロビンの材料となるほか、細胞内でエネルギー(ATP)を作るために不可欠な栄養素だという。夏のラウンドでは大量の汗をかくが、実は汗と一緒に鉄分も体外へ流出してしまう。鉄分が不足すると全身に酸素が行き渡りにくくなり、その結果疲労感や息切れ、集中力の低下を引き起こしている可能性があるとのこと。
「近年のスポーツ栄養学では『長時間の運動』によって『発汗による鉄の損失』や『運動の衝撃による赤血球の破壊』、『鉄吸収を阻害するホルモンの増加』が起こり、鉄代謝が変化することがわかっています。特に夏場は食欲が落ち、そもそも栄養バランスが崩れやすい季節。長時間炎天下でラウンドするゴルファーには、こうしたリスクがあることを知ってほしいです」(中島・以下同)
そして中島氏が強く警鐘を鳴らすのが、熱中症との類似性である。
「鉄不足の症状は熱中症と似ています。水分や塩分、ミネラルを意識して摂取しているにもかかわらず、『疲れが取れない』『息切れがする』『頭がぼーっとしたり集中力が続かない』といった感覚や症状が“長引く”場合、鉄不足を疑うといいと思います」
夏の「鉄分チャージ」で疲労を回復
<鉄分の種類について>

ヘム鉄は動物性食品、非ヘム鉄は植物性食品から摂取できる
【ヘム鉄】
・特徴:吸収率がいい
・含まれる主な食品群:動物性の食品
・代表的な食材の例:赤身の肉、レバー、赤身の魚(かつお・まぐろなど)、アサリなどの貝類
【非ヘム鉄】
・特徴:吸収率があまり高くないため、ビタミンCと一緒に摂るなど吸収を上げる工夫が必要
・含まれる主な食品群:植物性の食品
・代表的な食材の例:葉物野菜(小松菜、ほうれん草など)、大豆製品(納豆、豆腐など)
対策としては、吸収率の高い「ヘム鉄」(動物性食品に多く含まれる)と、吸収率の低い「非ヘム鉄」(植物性食品に多く含まれる)をバランスよく摂ることが重要だと中島氏。
夏場はそうめんなど簡単な食事で済ませがちだが、食品添加物が多い加工食品は鉄の吸収を阻害するため、手作りの和食を心掛けたい。
不足を感じて手軽な市販のサプリメントに頼りたくなるゴルファーも多いだろう。しかし、中島氏はこう注意を促す。
「鉄は不足しているからといって、自己判断でサプリメントを摂取すればよいものではありません。また、過剰に摂取すると健康被害につながる可能性もあります。疲労感などが長引き明らかに鉄不足が疑われる場合は、医療機関で血液検査を受け、必要に応じて適切な鉄剤を処方してもらうことをおすすめします」
| 性別 | 年齢 | 推定平均必要量(mg) | 推奨量(mg) | |
|---|---|---|---|---|
| 男性 | 30~49 | 6.0 | 7.5 | |
| 50~64 | 6.0 | 7.0 | ||
| 65~74 | 5.5 | 7.0 | ||
| 75以上 | 5.5 | 6.5 | ||
| 女性 | 30~49 | 5.0/7.5 | 6.0/10.5 | |
| 50~64 | 5.0/7.5 | 6.0/10.5 | ||
| 65~74 | 5.0/ー | 6.0/ー | ||
| 75以上 | 4.5/ー | 5.5ー/ |
<中島氏おすすめ、夏の鉄分補給のコツ>
「3食バランスよく組み合わせて、一日の推奨量を満たしましょう!」中島
【1】鉄分の吸収を妨げないよう、食事中のコーヒーや紅茶、牛乳は避け、胃腸環境を整えよう。
【2】8月が旬の食材ではカツオ、枝豆、しじみで摂取が可能。一度の食事で十分な量を摂るなら、肉・魚が効率的。
【3】一日の食事で鉄分をしっかり摂取できる食物の組み合わせはこちら⇩
(朝食)納豆(1.7mg)、卵(0.8mg)、豆腐の味噌汁(0.5mg)
(昼食)カツオのたたき(2.3mg)、小松菜のおひたし(1.5mg)
(夕食)牛肉120g(3.0mg)、ブロッコリー(0.7mg)
とはいえ、忙しい日々を送る人にとって、毎日の食事から十分な鉄分を摂るのは難しいはず。続く第2回では、毎日の生活に自然と溶け込む鉄分補給の画期的な「相棒」を紹介する。
