絶対王者が感じる「レセンシー・バイアス」
直近の不発に対する周囲の声に対し、試合後の会見でラームは自身の不調をごまかすことなく堂々と語った。
「確かに、この2週間の成績は最高とは言えなかったね。でも、シーズン序盤の素晴らしい戦いぶりや、香港で必要だった時に勝ち切れたことについてはとても誇りに思っているよ」
彼が今季のベストバウトとして挙げるのが、そのLIVゴルフ・香港だ。首位に立ちながらも終盤に一度リードを奪われる苦しい展開の中、上がり数ホールで圧巻の「4連続バーディ」を奪って逆転勝ちを収めた。
「あの局面で必要だった完璧なゴルフをやり遂げた瞬間こそが、今シーズンで最も誇らしい思い出だ」と胸を張る。
だからこそ彼は、直近の結果だけで物事が評価されがちな風潮に対し、スポーツ界全体に蔓延するある「バイアス」を指摘してみせたのだ。
「スポーツ界においては、誰もがひどい『レセンシー・バイアス(直近の出来事を過大評価する心理)』を持っていると思う。一番最近やったことだけが、最も重要なこととして扱われてしまうんだ」
F1フェルスタッペンとシェフラーを引き合いに

今大会は41位タイ、前戦UKも23位タイと本調子ではなかったが、今季LIVゴルフリーグでは優勝2回を含むトップ10入り8回(うち2位が4回)と圧倒的な一貫性を見せたジョン・ラーム
ラームの分析は鋭く、そして論理的だ。彼は自らの持論を裏付けるために、他のトップアスリートたちを例に挙げて説明した。
「例えば、F1のマックス・フェルスタッペンを見てほしい。彼は4連覇という偉業を達成したのに、昨シーズン2位になった途端、今では誰も彼の偉大さを話題にしなくなってしまった。ゴルフ界でも同じだ。スコッティ・シェフラーはPGAツアーでフェデックスカップをリードしているというのに、ここ2カ月優勝していないというだけで、我々は彼の凄さについて語らなくなっている。『最近勝っていない』というレセンシー・バイアスに完全に囚われているんだ」
勝利が義務付けられたトップアスリートだからこそ感じる、周囲からの理不尽な評価基準。人々はすぐに目新しい勝利や直近の結果を求め、長期間にわたって頂点に立ち続ける「一貫性」の価値をいとも簡単に忘れてしまう。
日曜日の朝の素顔と、記録が証明する真の強さ
そんな完璧に見える絶対王者にも、人間味あふれるリアルな一面がある。
実は最終ラウンドの朝、ラームは密かにキャディのジェフとマネジャーのアダムに「自分が年間王者を逃すには、今日何が起きる必要があるか」という具体的な数学的条件を計算させていた。
「ブライソン(デシャンボー)が奇跡的な大爆発を見せ、自分に最悪の事態が起きない限り王座は揺るがない」という結果を聞かされたことで、ラームは「よし、あとは自分のゴルフに集中するだけだ」とようやく心を落ち着かせることができたという。
「でも、人々が腰を落ち着けて『全体像』を見たとき、少し違う景色が見えるはずだ」
ラームは静かにそう語った。
大きく崩れ、下位に沈んでもなお、誰にも追いつけないほどのポイントをすでに積み上げていたという事実。それこそが、ジョン・ラームがいかに長いシーズンを高いレベルで安定して戦い抜いたかという「圧倒的な一貫性」の何よりの証明である。
一時的な不調や1試合の結果に惑わされることなく、年間を通して最強であり続けた絶対王者。1戦を残して彼が手にした前人未到の3連覇のトロフィーは、目先の勝利よりもはるかに価値のある「真の強さ」を雄弁に物語っている。
写真/LIVゴルフ提供
