国内女子ツアー最高峰「日本女子オープンゴルフ選手権」最終日。桑木志帆と申ジエによる死闘は、プレーオフの末に申が勝利。通算30勝、国内メジャー4冠、そして永久シード獲得という歴史的偉業を達成した。勝負を左右するスタート前の練習グリーンには特有の緊張感が漂っていた。上位陣の朝の最終調整を定点観測し、それぞれの準備が最終結果にどう結びついたのかを紐解いた。
画像: 歴史に刻まれたプレーオフ。鍵は“パッティング”が握っていた?

歴史に刻まれたプレーオフ。鍵は“パッティング”が握っていた?

最終盤3組の組み合わせと選手の出入り

≪最終盤の組み合わせ≫
11時40分 阿部未悠、佐藤心結
11時48分 申ジエ、桑木志帆(最終組)

≪主要3選手の練習グリーン出入り≫
10時30分頃:阿部が入り調整を開始。
10時40分頃:阿部が移動し、入れ替わるように申が入る。
10時54分:申が移動し、グリーン上は一時無人に。
11時2分:桑木が一人で入る。
11時24分:桑木が移動して終了。

桑木志帆とベテラン申ジエ、対照的な最終組

画像: 13番では16m、14番では1m、17番では50cmのバーディパットを決め切り、プレーオフへと持ち込んだ申

13番では16m、14番では1m、17番では50cmのバーディパットを決め切り、プレーオフへと持ち込んだ申

日本女子OP初制覇がかかる単独首位の桑木志帆と、永久シードを狙って2打差を追う申ジエは、朝から対照的だった。

10時40分に現れた申は、他の選手が短い距離を確認するなか、ロングパットを打った後、残り距離をカップインさせる、というシンプルな練習を行っていた。練習時間はわずか14分。サッと切り上げて退場する姿には絶対的な自信と風格が漂っているように見えた。

「最近はショットの調子はよかったのですが、チャンスの場面でパッティングを外すことが多かったんです。決め切れないのがプレッシャーになっていて、短いパッティングでも不安がありました。なので昨日(第3ラウンド)は結構遅い時間まで練習しました。距離感がとても大事だと思い長い距離を練習したぶん、今日は決まってくれました」(申)

画像: 最終日の朝、練習グリーンで調整する桑木の様子

最終日の朝、練習グリーンで調整する桑木の様子

一方の桑木は11時2分、無人のグリーンに登場し、他の選手たちと同様、短いパットから練習を始めた。パッティングの感覚を探る様子が見られ、横に置いたスティックに球が当たる場面も。トレーナーに腰やわき腹を押さえてもらいながら同じ距離の練習を行っていた。その後の練習は独特で、3、4カ所を往復しながら足を広げて傾斜を念入りに確認した後、下りや上りのロングパットを実戦想定で徹底的に打ち込み、スタートホールへと向かっていった。

激闘のプレーオフと明暗を分けた結末

画像: 悔しさがにじむ桑木の姿

悔しさがにじむ桑木の姿

練習グリーンで対照的な朝を過ごした最終組の激闘は、3ホールに及ぶプレーオフの末、申がバーディパットを沈めて決着した。

前半終了時点で3打のリードをキープしていた桑木だったが、バックナインで申に追いつかれる展開に。敗れた桑木は「悔しいですね。でもジエさんはすごい良いプレーをしていて、気合を感じました」と勝者を称えた。入念に確認していたパッティングについては、終盤は「雨と寒さでグリーンが重くなり、届かなかった」と振り返り、「80%のプレーはできていた。あとは気持ちが足りなかった」と語った。

画像: プレーオフ3ホール目。バーディパットを沈め勝利が決まると、思わず天を仰いだ申

プレーオフ3ホール目。バーディパットを沈め勝利が決まると、思わず天を仰いだ申

一方、13番、14番での連続バーディ。そこからパーで耐えて17番のバーディを決めて、3打差からプレーオフへと持ち込んだ申。

「桑木選手は弱い部分がないことが強さです。自分の何がいいかを知っているので、いいバーディじゃないと勝負にならないと思っていました。でも私は他の選手より経験がある。天気がいいと(順位を)上げてくる選手が出てくるけど、悪天候なら(桑木選手との)2人の勝負ができると感じていました。(外せない)16番のパーパットは、ポジティブに『入る。入れなきゃダメだ』と思って打ちましたし、プレーオフの時も、『入る』とだけ思って打ちました」(申)

海外メジャーを制し今季勢いに乗る若き才能と、14分の調整から偉業を成し遂げたベテラン。朝の準備は、勝負の行方を暗示するかのようだった。

緻密なルーティンで粘りを見せた阿部未悠

画像: 惜しくも優勝に手が届かなかった阿部

惜しくも優勝に手が届かなかった阿部

初日を首位タイで発進し、好調な滑り出しを見せていた阿部。首位の桑木を3打差で追う最終日の朝も、彼女は自身のルーティンを崩さず、入念な調整に没頭していた。

まずはパターマットを敷いて、短い距離のストロークをチェック。続いてグリーン上に紐を張り、黄色いシートをターゲットに見立てて、狙ったラインへ真っすぐ打ち出せるかを徹底的にすり合わせる。仕上げに5メートルの距離感を確かめるなど、そのルーティンは実に緻密だった。

こうした準備を経て臨んだ最終ラウンド。出だしの1番でボギーを叩いたものの、2番ですぐさまバウンスバックを見せる。しかし、その後は2バーディ・4ボギーとスコアを伸ばしきれず、通算4アンダーの6位でフィニッシュ。培った感覚を頼りに粘りを見せたが、メジャー優勝争いの厚い壁を崩すには至らなかった。

朝のわずかな時間、練習グリーンで見せる選手たちのルーティンには、それぞれの個性と、その日の運命を左右するドラマが凝縮されている。

大舞台のプレッシャーのなか、己と向き合う彼女たちの戦いは、すでにスタート前から始まっていた。ゴルフというメンタルスポーツの奥深さを、静かな朝のグリーンが物語っていた。

撮影/岡沢裕行


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