朝の練習場から苦しんでいた18ホール

どことなく苦しい表情の岩田寛
「いつもならホールバイホールがスラスラ出てくるんですけど、出てこないぐらいきつかったです」
優勝会見に姿を現した岩田は、安堵よりも疲労の色を濃く滲ませていた。2位に5打という大量リードを持って最終日を迎えるのは自身初。しかし、朝の練習場から自身の不調をはっきりと自覚していたという。
「もう1番からずっと必死でした。自分の調子も全然良くないのも分かっていたんで、ずっとどうしようかなって思いながら打っていました」
コースの難易度や風、厳しいピン位置も相まって防戦一方の展開が続く。「ちょっと負けたかもって思いました」と弱気な感情もよぎる中、「とりあえず追いつかれるまではこのままでいいや」と自らに言い聞かせ、ひたすらに我慢を重ねるリアルな葛藤がそこにはあった。
最終18番、勝亦のバーディでついた“火”

最終日は岩田寛と勝亦悠斗のマッチプレーの様相を呈した
そんな岩田の精神状態が極限に達したのが、最終18番ホールだった。1打差まで詰め寄っていた同組の勝亦悠斗が、先に6メートルのバーディパットをねじ込み、大歓声が沸き起こる。ついに追いつかれるという絶体絶命のプレッシャーがかかる場面。その瞬間、岩田の心境はどうだったのか。
「正直、うざいなと思って(笑)。何してんのと思って(笑)」
岩田ならではのユーモラスで素直すぎる本音がこぼれる。しかし、勝亦とキャディの歓喜の叫び声が、岩田の中に眠っていた闘争心に火をつけた。
「『この野郎』って思いましたよ。あれ(叫び声)してなかったら、僕(のパットは)入ってなかったかもしれないです」

遅れて出た「この野郎」のガッツポーズ
集中力を極限まで高めた岩田は、3メートルのウイニングパットを見事にカップインさせる。そして、ボールを拾い上げ、同伴競技者と握手を交わす一歩目を踏み出した瞬間に、ワンテンポ遅れてガッツポーズを繰り出した。
「入った瞬間は普通だったんです。そしたら、さっきの(相手の叫び声)を思い出して『この野郎』ってなりました(笑)。取り上げて握手しに行く1歩目くらいに『あ、そういえば』と思って。まあ冗談ですけどね(笑)」
劇的な幕切れの裏にあった感情の波を、照れ隠し交じりに明かしてみせた。
「BMWと縁があるのかな」ストイックなベテランのピュアな情熱
今大会の優勝により、岩田には副賞として高級車「BMW」が贈られた。今年6月の「BMW日本ゴルフツアー選手権」に続き、早くも今季2台目となるBMWの獲得に、「(BMWと)縁があるのかなって思います」と語る岩田節で取材陣を和ませた。
死闘を制して初代王者に輝いたものの、今の心境を問われると「自分のプレーに対する悔しさのほうが(喜びの)7倍大きい」とボヤく岩田。途中の自身のプレーには「情けない」と反省を口にするなど、どこまでもストイックだ。
しかし、その根底にあるのはゴルフに対するピュアな情熱に他ならない。45歳になってもなお、モチベーションは「単純に上手くなりたいっていうのと、海外でやりたい、ただそれだけ」。コアなゴルフファンを惹きつけてやまない岩田の魅力は、この飽くなき向上心と人間臭さなのだろう。
写真/有原裕晶
