「日本女子オープンゴルフ選手権」でJLPGAツアー通算30勝目、永久シード権獲得、そして史上初となる「国内メジャー4大会制覇(グランドスラム)」という歴史に名を残す偉業を飾った申ジエ。随所に勝負強さを発揮した彼女のスウィングと勝負ドコロの凄みについて、プロゴルファー・中村修が解説する。

歴史に名を残す30勝目を飾る

申ジエ選手がついにJLPGAツアー30勝を達成し、史上7人目となる「永久シード」の権利を獲得しました。世界中のツアー通算勝利数は68勝に達しますが、勝利を決める最後のパットが沈んだ瞬間の全身を震わせるような躍動と歓喜の姿は、これまで見せたことがないほど感情が溢れ出たものでした。

節目の30勝目、開場100周年を迎えた名門・宝塚ゴルフ倶楽部(旧コース)という特別な舞台、そして今季絶好調の桑木志帆選手との激闘——様々な要素が重なり合い、心を動かされたゴルフファンも多かったのではないでしょうか。

サンデーバックナインの13番から何度もピンチを迎えながらアプローチとパットで切り抜け、3つのバーディを奪い3打差を追い付く勝負強さを見せます。プレーオフに突入しても2ホール目の距離のあるバンカーからパーをセーブし、3ホール目に勝負のバーディパットを決めるプレーは、技術とメンタル、難コースを4日間戦い抜く体力といった申選手がこれまで積み重ねてきた技術と経験のすべてを出し切る気迫溢れる姿が印象的でした。

画像: 日本女子オープンで節目の30勝を挙げ歓喜の姿を見せた申ジエ(撮影/岡沢裕行)

日本女子オープンで節目の30勝を挙げ歓喜の姿を見せた申ジエ(撮影/岡沢裕行)

今回の申選手の姿を見て思い出されるのが、2023年の「アース・モンダミンカップ」です。首位に1打差の申選手と2打差でツアー2年目の桑木選手が同組で最終日を迎えました。前半からショットが荒れ、深いラフに翻弄されながらもショートゲームで耐えてスコアをキープ。そこから申選手は後半に3つのバーディを奪って岩井明愛選手とのプレーオフに残ると、激闘を制して優勝を飾りました。

対してスコアを落とした桑木選手は悔し涙を流しながら18番ホールを歩き、18位タイでフィニッシュ。しかし翌週の大会で桑木選手は悔しさをバネに、申選手のプレーから学んだ粘り強さを発揮し、櫻井心那選手とのプレーオフの末に当時自身最高位となる2位に入りました。

あれから3年余りの時が流れ、海外メジャー「AIG全英女子オープン」での優勝などを通じて大きく成長を遂げた桑木選手。今回の「日本女子オープン」の舞台ではあと一歩届かず惜敗したものの、この悔しさを糧に、シーズン残りの戦いでもさらなる躍進を見せてくれるはずです。

始動から手首を積極的に使う

画像: ショット前にハーフスウィングを行うのがルーティン(撮影/岡沢裕行)

ショット前にハーフスウィングを行うのがルーティン(撮影/岡沢裕行)

スウィングの技術面に目を向けると、打つ前のルーティンに大きな特徴があります。アドレス前にハーフスウィングの大きさでクラブヘッドを大きく動かします。手元の感覚と実際の弾道イメージを擦り合わせ、インパクトゾーンでのクラブヘッドの軌道を綿密に確認しているのです。

画像: 空中を見て、弾道をイメージする申(撮影/岡沢裕行)

空中を見て、弾道をイメージする申(撮影/岡沢裕行)

アドレスに入ると、空中に視線を向けます。タイガー・ウッズが「空中に窓枠をイメージし、そこを通す弾道を描く」と語るように、申選手も頭の中で弾道を鮮明に描いています。基本はドローボールですが、ピン位置や風の状況によってフェードも巧みに打ち分けます。ハーフスウィングでヘッドの軌道やフェースの開閉、打球の放物線を描くルーティンがいかに重要かを示してくれています。

画像: 手首を使ってヘッドを大きく動かしてテークバックする(撮影/大澤進二)

手首を使ってヘッドを大きく動かしてテークバックする(撮影/大澤進二)

スウィング自体は、つま先寄りに重心を置き、手首のコックを解かずにフェースを開かないまま、ヘッドを少し外側へ引くように始動します。ヘッドをインサイドに引きすぎないことで、トップでクラブがクロスするのを防いでいるのです。

左腕が地面と平行になる位置で、腕とシャフトの角度が「90度」になることが、手首を効果的に使う際の一つの目安です。手首を使わずにワイドに上げるか、手首を使って早めに始動するか。自分の身体特性にマッチすると、再現性が飛躍的に高まりショットが安定します。

画像: 手首を使ってフェースを開かずにヘッドを外側に上げる(撮影/岡沢裕行)

手首を使ってフェースを開かずにヘッドを外側に上げる(撮影/岡沢裕行)

バックスウィングで右を向いた胸が、ダウンスウィングで下半身から巻き戻されると、左腕は身体に巻き付くように遅れて下りてきます。こうすることでクラブは正しくスウィングプレーンに乗り、インサイドから滑り込んできます。

画像: 下半身から巻き戻し左腕が体に巻き付くようにダウンスウィングする(撮影/大澤進二)

下半身から巻き戻し左腕が体に巻き付くようにダウンスウィングする(撮影/大澤進二)

早めのコックで決めた手首の角度をキープしたままダウンスウィングへ移行。手首のタメを維持したままインパクトする感覚を持ちながらも、実際には遠心力によってヘッドへ大きなエネルギーが伝わり、自然となだらかにリリースされていきます。

節目の30勝は新しい出発

世界各地のツアーで歴史的な偉業を達成し続ける申ジエ選手。その裏側では、自国・韓国だけでなく日本においても多額の寄付を行ったり、優勝副賞で獲得した食品や副賞商品を福祉施設へ寄付し続けたりと、慈善活動にも尽力しています。

「この優勝のために頑張ってやってきました。これから次の目標を考えても遅くはありません。私のゴルフはまだ行けると実感しましたし、永久シードも獲得したのでずっとゴルフを続けられます。また素晴らしいプレーを見せたいですし、その姿を後輩たちに見せながら、新しい出発という気持ちで歩んでいきたいです」(申ジエ)

勝利に対する執念、集中力、洗練された技術、そして常にアップデートし続けるマインド。申ジエ選手から学べる教訓は計り知れません。彼女の背中を追う日本勢のさらなる奮起にも期待がかかります。


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