アグレッシブに攻めるプレースタイルを持つ彼にとって、ひたすら耐え続ける展開は、自身の持ち味と相反するものだったのかもしれない。しかし、今年の舞台となるタラオカントリークラブ 西コース(7411ヤード・パー70)に対しては、これまでの印象とは明確に異なる見解を示している。
「日本オープンの中では一番好きですね」
タフなセッティングへの警戒は持ちつつも、自身の攻めのイメージとコースの状況が見事にかみ合っている。かつての苦手意識を完全に払拭し、きわめてポジティブな精神状態で大舞台を迎えようとしているのだ。
220yd残る難関8番ホールへの緻密なマネジメント

水曜日。大西魁斗、アマチュアの小林翔音とともに練習ラウンドをした中野麟太朗。8番ティーショット
持ち前の飛距離を生かしたゴルフに注目が集まりがちな中野だが、彼の根底にあるのは緻密なコース分析に基づいたマネジメントだ。今大会において、彼が明確な警戒ポイントとして挙げたのが、パー5からパー4に変更された8番ホールである。

8番ティーイングエリアからの風景。中野の感覚では「フェアウェイは全然広い」というが、我々アマチュア目線だとなかなか狭い気が……
「フェアウェイは全然広いです。でも(セカンドで)220ヤード残る。300ヤード飛ばした選手でも、220ヤード先の落としどころが限定される狭いグリーンに打つ。これはなかなか難しいですよ」
8番グリーンは手前にあごが高いバンカーが待ち構えており、そこへ「セカンドをロングアイアンで打たせるホール」と分析する。

パー4に変更になったため、ラフに入れたらパーオンが難しくなるセッティングだ
この見極めの裏には、練習ラウンドでの生きたデータがある。実際にラフから4番アイアンで打った際、「ザザッみたいな感じで球がすぐドロップした」と、物理的にグリーンを狙えない失敗を経験しているのだ。だからこそ、導き出された答えはシンプルかつ絶対的なものとなる。
「ここはティーショットを飛ばしつつも、やっぱフェアウェイキープをすることが一番大事」
ラフからのロングアイアンという“罠”を避けるため、飛距離とフェアウェイキープの両立を鉄則として自らに課している。
「初日・2日目のロケットスタート」というゲームプラン
4日間を通じてスコアを落とさない「我慢のゴルフ」が強いられる日本オープン。ところが彼はあえて先行逃げ切り型の戦略を口にした。
「3日目・4日目の伸ばしはまだやったことない。初日・2日で結構スタートダッシュを切りたい人なんで。2日目5アンダーが理想ですね」
自身のゴルフを「気持ちのノリ」でスコアが大きく動くタイプだと自己分析する。「初日を迎えるまでの準備と、初日の入りの部分が一番大事」と語る通り、いかに早い段階でスコアを伸ばして好リズムを作れるかが、彼の成績を左右する生命線となる。ナショナルオープンの重圧に耐えるのではなく、自らのペースで主導権を握る。その戦略が、今回のコースコンディションとどう噛み合うのかが注目される。
日本オープンの優勝者には、ゴルファーの憧れであるマスターズや全英オープン(来年は聖地・セントアンドリュースオールドコース開催)への出場権という大きな特典が与えられる。しかし、中野のモチベーションの源泉は、そうした付加価値とは別のところにあった。
「そういう特典があるから勝ちたい! というわけではなく、本当にただ勝ちたいんです」
海外メジャーへの切符という「物」を目的とするのではなく、目の前の勝負に純粋に勝利したいという闘争心が、彼の言葉からは窺える。
「優勝して、それで特典がついてくるなら一番のプレゼント」
笑いを交えながらそう語る中野麟太朗。「初日・2日目逃げ切り」という独自のゲームプランと、コースの罠を見抜く緻密なマネジメント。純粋な勝利への渇望を胸に、彼がタラオカントリークラブ 西コースでどのようなスタートダッシュを見せるのか。まずは初日、リーダーボードの速報に彼自身の名前がどう刻まれるのかに注目したい。(文/山口哲平)
写真/姉崎正

