「あんまテンション上がんないんです(笑)。(今日の結果もスコアも)あまり興味はないです。『予選落ちでもいい』と思って今日プレーしてたんで」
歴史的快挙を成し遂げた直後とは思えない、「興味がない」「楽しくない」という意外すぎるネガティブな言葉の連鎖。そこには、結果という表面的な数字だけでは測れない、ゴルフという競技の深い精神的深層がある。
大岩の言葉の裏にあるリアリティは、極めて深刻だ。彼は今季、不眠症に悩まされている。「たまに薬飲んだりとかもして。それも朝だるくて、すごい眠いんですよ。眠いことにどんどんイライラしてくるんで、またそれ負の循環ですよね」と、精神的な悪循環から抜け出せずにいる。

18番ティーショットは自身の感覚とズレたスウィングになり、盛大にドライバーを離す大岩龍一。しかし、ボールはしっかりフェアウェイをキープ。これも自身が納得いかない理由だろう
それに追い打ちをかけるのが、現在取り組んでいる大幅なスウィング改造の苦しみである。ドライバーのイップスを克服するため、長年親しんだドローボールを捨て、フェードヒッターへの転向を図っている。「ドローの打ち方は忘れました」と話すほど、フェードしか打てない体にはなっているが、それでもその技術は未だ完成には程遠い。自分が意図した球が打てないもどかしさを抱えながら、結果が求められる連戦に挑み続けなければならない現実。「できないに決まってんのにそれをやろうとしてるわけだから、苛立つに決まってますよね」と、赤裸々に苛立ちを吐露する。
コーチである谷将貴との会話の中で、大岩は「僕、ゴルフ向いてないっす」とこぼしたという。それに対する谷の「技術的には向いている。でも精神的には向いてない」という言葉に、本人も深く納得した。
「日本オープンという舞台に立てることはありがたいですが、いまの状態で出たくはなかった。でもプロゴルファーとして休むわけにはいかなかいので」
心と体、そして技術が完全にバラバラの状態。しかし、スコアカードに刻まれたのは「62」という完璧な数字だった。

この日、唯一のボギーを叩いた16番をホールアウトしたあと、気分を変えるためか、17番ティーイングエリアの横にあるマウントで一人横になっていた大岩。気分を落ち着いたのか17番ティーイングエリアにはこの表情で上がった
大岩は現在の自身のプレーを、「『日本オープン』という大舞台を練習場にしてます」と表現する。「自分が思った距離が打てていない、だけど結果的にその風の兼ね合いとかでたまたまピンに寄りましたみたいなのがあったのかもしれない」と、この日のラウンドを極めて冷めた感じで振り返る。
「ゴルフはボールをコントロールするゲーム」と彼は言う。今の自分にはそれができていないと断言する一方で、こんな真理も口にした。
「それが別にできてないからといってスコアにならないわけじゃないっていうのもゴルフですよね」
完璧なメンタルと完成された技術がなければ勝てないわけではない。心がささくれ立ち、意図した球が打てず「予選落ちでもいい」と投げやりにすらなっていても、ボールがカップに沈めばスコアになる。大岩龍一が絶望の不眠と苛立ちの中で叩き出した「62」は、ゴルフというスポーツが持つ不思議さと残酷さを、鮮明に映し出している。(文・写真/山口哲平)

