この日、12時20分にティーオフを迎えた細野の組は、進行が遅れたことで各ホールにおいて前の組を待つ時間が長く続くタフなラウンドを強いられていた。競技において、過度な待ち時間は選手のリズムを削ぎ、フラストレーションを生む要因になり得る。しかし、細野の精神状態は驚くほど凪いでいた。

細野のこの日のラウンドは待ち時間も多く、橋本拓真キャディと談笑する場面がしばしばみられた(写真/山口哲平)
「全く問題ありません。キャディさんと『ずっと待っているね』と話していたくらいです」
焦燥感に駆られることなく、彼は夕闇が近づくタフな状況すらも淡々と受け入れていた。
初日を終えてのスコアボードには「65(5アンダー)」、首位と3打差の4位タイという堂々たる数字が刻まれた。今年の日本オープンは、初日から多くの選手がアンダーパーを記録する異例の“伸ばし合い”の様相を呈している。午後スタートの細野がコースに出る頃には、すでに上位陣のスコアは赤字で埋まり始めていた。だが、ここでも彼の思考は極めてフラットだった。
「例年よりは日本オープンっぽくないというか、伸ばし合いになるだろうなとは思ってました。ただ、スタート前に選手がそれだけ伸ばせるということは、ティーが前だったり、ピン位置もそんなに難しくなかったりするはず。何かしら理由があるんだろうなと思っていました」
単に「周りがスコアを出しているから自分も急いで追いつかなければ」と焦るのではなく、コースセッティングの意図を俯瞰する視点。それが、過度なプレッシャーから彼を解放していた。
好スコアの裏には、状況に応じた柔軟な判断力がある。ハイライトとなったのは、4番から6番にかけての3連続バーディだ。中でも4番ホールでは、細野の真骨頂とも言えるクレバーなマネジメントが光った。

左上から時計周りに。①4番ティーショット。左に曲げて「フォア」の声。②深いラフからグリーン手前バンカーを狙って。③計算通りにバンカーから1mに寄せる。④バーディとして、歓声に応える細野(写真/山口哲平)
ティーショットがカート道で跳ね、ボールは深いラフへ。グリーンまで残り約230ヤードというシビアな状況で、彼は「ラフだったのでグリーンに止めるのは難しい」と瞬時に判断する。そこで手にしたのは5番アイアン。「バンカーに入れよう」と、あえて手前のハザードを狙う異端のルートを選択したのだ。狙い通りにバンカーへ運び、そこから1メートルに寄せて見事にバーディを奪取。
続く5番はドライバーで残り140ヤード地点に置き、右5メートルのパットを沈めて連続バーディ。さらに6番では、4番アイアンで確実に刻んでから、残り距離を得意な52度のウェッジで20〜30センチの「ベタピン」につけた。ピンチを逆手にとる判断力と、自分の得意な距離を逆算して生かす計算。すべてが彼の頭脳の中で完結していた。
「100点に近いんじゃないですかね」
初日のプレーをそう自己評価した細野。アウトコースでスコアを伸ばし、インコースをノーボギーでまとめ上げた事実は、そのマネジメントの精度の高さを物語っている。
しかし、彼の眼差しに慢心はない。タラオCCが本来持つ恐ろしさを、すでに見抜いているからだ。
「まだ硬さは全然出ていないのでロングアイアンでも止められるかなとは思うんですけど、やっぱり奥につけたり横につけるとすごく傾斜も強いので、3パットを簡単にしちゃうなと思う」

夕暮れにホールアウトした細野勇策(左)と岩田寛(右)(写真/姉崎正)
週末に向けてグリーンが硬く仕上がれば、セカンドショットのわずかなズレが致命傷になる。日没の静寂の中で見せた、細野勇策の冷静なコース分析とマネジメント力。明日以降、ナショナルオープンが真の牙を剥き始めたとき、彼のクレバーな頭脳戦がどのような輝きを放つのか。リーダーボードを追う楽しみが、また一つ増えた。(文/山口哲平)

