日本アマチャンピオンに6回輝いたアマ界の至宝が、いまだに「頭を動かさないことを唯一絶対に心がけている」と漏らす。どうやら、アドレスの中にすべ ての謎が秘められているようである。アマとしてゴルフをやるからには、すべての人はシングルという勲章を目指す。それには一度、アドレスの 不思議世界に足を踏み入れる必要がありそうだ。
疎密感というのがある。遠近感と言ってもいい。手前は大きく、遠くは小さく見える。電車の線路など近いところは幅広く見え、遠くにしたがって狭くなり、ついには左右の線が交わるように見える。
そうした疎密感による錯覚を取り除くことから、中部のアドレスは始まる。
「ボールが飛んでくラインと、スタンスのラインはどこまでいっても平行になっているものですよね。ところが狙うポイントは遠くのほうにあるので、アドレスする位置から見ると飛行ラインもスタンスのラインも一本の線になってしまう。視覚的にね。でも、これが錯覚のもとになると思うんで す」
――線路は交わらない。
そう。交わらないけど交わってるように見えちゃう。そうなるとスタンスの向きが微妙にかわってくる。右に向くことが多くなるわけですね。視覚に頼りすぎるとそうなりやすい。
ボールはクラブフェースで打つものですから、まずフェースを狙う方向にスクェアに合わせることから始めないと飛球ラインは決まらない。仮にピンを狙う としたら、そのピンに向けてフェースを直角に合わせる。
僕の使っているドライバーはスクェアフェースになっていますから、その道具を信用してね。そうやって飛球ラインを決めてから、左足の位置を決めるわけですね。左かかとの線上よりボール1個分だけ中に入れて、左つま先が飛球ラインに直角になるように。そうすれば2本のレールはどこまで いっても交わらないはずです。通常の場合は、これでラインアップ出来たと確信します。
――すでに <動かし難いもの>が出来上がったものとして?
そこで不安感があっちゃまずいですよね。たとえ違和感があったとしても「これで正しいんだ」と確信するしかない。そして左右のグリップをしっかり握る。しっかり、といっても10本の指全部を均等にではないですけど、もっとも“しっかり”させるのは左の小指、次に薬指、中指です。
――10、 9、8、7という調子で、左の小指から右の親指までの“しっかり”加減を表現していましたね、以前から。
ええ、左の小指をもっとも“しっかり”させて、右の親指はもっともその力加減を少なくさせる。僕はそれに慣れていますから感覚的に出来ちゃいますけ ど、慣れないうちは、はじめに10本の指全部で“しっかり”握っちゃって、それから右の親指から順に力を抜いていって、左の小指だけははじめのまま最後まで“しっかり”させておく、と、この感覚がつかめると思いますよ。
それから、左の小指、薬指、中指がゆるみにくい手首の角度があるんですね。リストを親指側にコックさせるとゆるまない、いわゆるハンドダウンの格好に。もうひとつは、ほんの少し左手のグリップをかぶせたほうが三本指がしっかりしますね。
(1988年 3月、チョイスVOL.39)
その②の記事はこちら↓↓
中部銀次郎「握る」「狙う」「立つ」の手順 その②グリップを “しっかり”させ 肩の力を抜くのは難しい