「広野」は一昨年の秋、それまでのコーライグリーンをベントにかえた。かえるに当たり、アンジュレーションもつけ、面積も三割がた広くしたそうである。それやこれやで中部が研鑽を積んだころとはかなり様変わりした。彼のプレーと目を通して、新生「広野」を紹介してみたい。

画像1: 視覚に訴える緊張感の緩和は「焦点」を狂わせる。
アマ・ゴルフの世界 中部銀次郎「広野を往く」④

スタートは9時過ぎ。ウィークデーとは言えもっとも混み合う時間帯なのに、1番ティに群がる人もない。中部の第一打はフェアウェイの中央よりやや左の、約260ヤードは飛んだであろうか。

そこからフェアウェイウッドでグリーン手前70ヤードほど右側のラフに入れる。ピンは左サイドに立っていたのでアプローチは狙いやすいのだが、ダウンスロープのライだった。

アプローチはピンの手前にバウンドしたあとグリーン奥のカラーまで転がる。そこからパターで寄せ、ロングホールをパーで上がる。一見、こともない”船出”だったが、中部はすでに新生「広野」の攻め方について頭を痛めている風情だった。一つはグリーンの大きさにあるようである。

フェアウェイの幅につり合ったグリーンの広さというものがあって、それがホール全体のバランスを整える。今度の改造でそのグリーンが三割がた広くなった。そのため視覚に訴える緊張感が緩和された、というのだ。

アベレージゴルファーには広くなった分だけテンションによるミスを低下させてくれるのだが、中部ほどのゴルファーになるとテンションが低下する分だけ焦点が合わせにくくなるようだ。

ズームレンズで被写体を引き寄せるようにして、グリーンを眺めてみた時、グリーン周りのバンカーやマウンドといった”装飾品”がフェアウェイの幅に対してグリーンが広がった分、ファインダーの中で整合されにくくなったのかもしれない。

画像2: 視覚に訴える緊張感の緩和は「焦点」を狂わせる。
アマ・ゴルフの世界 中部銀次郎「広野を往く」④

あのピンを狙うにはバンカーのどのあたりにターゲットを定めればよいか、と、ズームレンズの中の被写体を相手に策を巡らせる。改造前の、”絵”が頭にあるせいか、広いグリーンに対して焦点が合わせにくいのだろう。改造後、初のプレーだったせいかもしれない。

「おいおい」「こらこら」

グリーンを狙うショットをしたあと、しばしば、ボールに向かって悪戯をした子供を叱るように声をかける。本人はピンに寄るという確信を持っているのに、最初のバウンドの跳ね方が大きく、空中にいる間にスピンがほどけてしまうのだろうか、本人が意図した以上にランするのだ。

ベントのサンドグリーンの特徴と言ってよい。コーライグリーンの頃にはなかったバウンドとランである。9番アイアンやウェッジなど、ロフトのあるクラブで打ったボールでも予想以上にランする。そのたびに、おいおい、こらこら、と叱る。

グリーンへのルートは以前とちっとも変わらないのに、グリーンを狙うショットはランの分だけ不測性が多くなり、彼にとっては難度が高くなったようだ。グリーン手前の例の「アリソンバンカー」のあるホールが多いだけに、ピンが手前に立つとさらに難度を増す。

そういうホールではバンカーとグリーンの間のわずかなエリアにワンクッションさせて、ランのエネルギーを殺すような攻め方をしていた。しかしその意図通りにはなかなかいかない。やはりフォーカスが合わないらしい。

画像3: 視覚に訴える緊張感の緩和は「焦点」を狂わせる。
アマ・ゴルフの世界 中部銀次郎「広野を往く」④

キャリーがほんの少しだけ不足すると、バンカーの向こう側の土手に当りボールは「アリソンバンカー」の中に隠れる。逆にグリーンに直接キャリーすると、ハイジャンプしたあと滑走をつづける。ラウンドが進むにつれ、そうした齟齬に頭を痛めていることがよく分かった。

(1990年3月チョイスVol.53)

その①の記事はこちら↓↓
アマ・ゴルフの世界 中部銀次郎「広野を往く」①

その②の記事はこちら↓↓
名手中部の技術を“発酵”させた名コース アマ・ゴルフの世界 中部銀次郎「広野を往く」②

その③の記事はこちら↓↓
ゴルフは起こったことに鋭敏に反応せず……アマ・ゴルフの世界 中部銀次郎「広野を往く」③

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