「サタデーグランドスラマー」と、いつの間にか、グレッグ・ノーマンに辛い形容詞がついた。“世界最強”のゴルファーと呼ばれていた。にも関わらず、メジャーでなかなか勝てない。いや土曜日の3日目まで首位に立ちながらの逆転負けが多かったのだ。当時の写真から振り返ってみよう。
悲劇のヒーローの印象付けた86年“3度の逆転負け”
特に1986年は、年間グランドスラムを達成してもおかしくなかった。4月のマスターズでは、1打リードして最終日を迎え、優勝争いをしながらジャック・ニクラスがバック9を30で回って逆転負け、2位。
6月、全米オープンでも首位でスタートしながら75と崩れ、66を出したレイモンド・フロイドに敗れ12位。7月、全英オープンで、ようやく中嶋常幸に競り勝って優勝。
8月の全米プロ。3日目を終えて2位に4打差の首位。ボブ・ツエーとの優勝争いは、最終ホールまでもつれ込んだ。ツエーは、絶体絶命と思われたが、奇跡的にバンカーから直接カップに沈めて、逆転負け。
この出来事から「サタデーグランドスラマー」と呼ばれたのである。とりわけマスターズでは、9回ベスト5入りをしているが、遂に優勝は叶わなかった。
何かが、勝利の女神が、あるいはちょっとした風が、ノーマンに吹いてくれていたら……という感傷的な分析もしたくなる。
「僕は16歳でゴルフを始めたんだ。だからこの先10年が私の年。ほんの少し年をとったメジャー・チャンピオンがいたっていいじゃないか」とノーマンは、当時語っていた。そのノーマンが、ようやく2度目のメジャーに勝てたのが、1993年の全英オープンだった。
ノーマンは、いつしか“不運の男”と呼ばれてしまったけれど、彼のリスクを恐れない魅力とアグレッシブなゴルフは、誰にも深く記憶に残っている。
文/三田村昌鳳