14本の最終決定は
清水の仕事
毎週のように優勝争いに加わり、2位に大差をつけ賞金レースを引っ張るイ・ボミ。そんな彼女を力強くサポートするのは、2014年から専属キャディを務める、清水重憲だ。
アース・モンダミンカップでのイ・ボミの優勝で、清水は通算33勝を記録、ジャンボ尾崎のキャディ・佐野木計至の32勝を抜き、キャディの“勝ち頭”となった。
昨年夏、清水に話を聞く機会があった。イ・ボミが初の賞金女王を目指し、トップを独走している時である。
「2014年は、前半から飛ばし過ぎて、後半、体力も精神力も擦り減らしてしまった。今年(15年)は狙う大会を絞っています」
どの試合で勝ちに行くか、清水はそういった“戦略”にまで携わる。クラブセッティングでも、どの14本で戦うか、またクラブをどう調整すべきかをメーカーに伝えるのも清水に委ねられている。プロに帯同し、バッグを担ぐのが役目…、そんなキャディのイメージは彼の仕事を見ていると瞬く間に覆される。
そんな清水の仕事ぶりを、イ・ボミに尋ねた。
「ノリさん(清水の愛称)は、決断が凄く早い。それに私が考えていることとほとんど一緒。だから迷わずに打っていけます。これは本当に助かりますよ。私は疲れてくると面倒くさくなって、プレーが雑になるんですけど、そんな時も気持ちを乗せてくれます」
「それに私が知らないことをいろいろと教えてくれます。ノリさんがアップグレードしているのを感じますね。とても尊敬しています! ただ、覚える日本語が関西弁でちょっと困るんですけど(笑)」
イ・ボミの表情や言葉には、清水への揺るぎない信頼がにじみ出ている。
仲間も一目置く
清水の雰囲気作り
イ・ボミが清水に寄せる信頼。これは一朝一夕に得られるものではない。20年のキャディ人生によって培われた経験があってこそだ。
清水のキャディ人生は22歳から始まるが、その2年後には田中秀道のキャディとして帯同、そこで“プロ意識”を叩きこまれた。
「試合中は想像以上に、張り詰めた緊張感がある。そこでの振る舞い、かける言葉、これは厳しく指導してもらいました。こちらの何気ないひと言も、試合では妙に引っかかったりするんです」
「例えば“右OBですよ”という言葉。まったく意識していなかった選手にとっては、余計な情報になってしまう。かといって、伝えるべきことは伝えなくてはいけない。そのあたりの間合いを秀道プロは指導してくれました。誰のキャディをしても通用するように」
その後、谷口徹のキャディを務め、2度日本オープンを制するが、そこではマネジメント、ショートゲームの大切さを学ぶことになる。
「谷口プロはマネジメントと小技で勝負している選手。パー5でのバーディチャンスの作り方、長いパー4でパーで切り抜ける方法などは、とても勉強になりました」
ショートゲームの大切さに関しては、その後コンビを組んだ平塚哲二、スポット的に担いだ藤田寛之からも学んだ。その中で彼らに共通することを見つけたという。
「ここはダボちゃうか、という状況でも必死にボギーを獲りに行く。とにかく“あきらめない”。この1打への執着は、僕のアイデンティティにもなっています。優勝争いはもちろん、75や76を叩きそうなときでも“1打でも少なく”という気持ちが、運をはこんでくることもあるんです」
予選落ちが決定的な状況では、距離やライの判断も“だいたい”になることが多いというが、清水はどんな時も変わらず仕事をこなす。普通のことをしっかりやり続ける姿勢には、キャディ仲間も一目置いている。
また、空気の読み方、優勝争いをしている時のプロをリラックスさせる雰囲気作りは、なかなか真似できないのだという。この点が、イ・ボミが清水に白羽の矢を立てた大きな要因でもあった。
イ・ボミの優勝の裏で、プロキャディ・清水重憲が大記録を達成できたのには、「1打でも少なく」という信念があったからなのだろう。今後、イ・ボミとともにどこまで勝ち星を増やすか楽しみだ。
※本文中敬称略
(月刊ゴルフダイジェスト2015年10月号を再編集)