あと一歩届かなかった
メジャー優勝
全米女子オープンと全米女子プロで、忘れられない出来事があった。ひとつは、1987年の全米女子オープンだ。最終日、13番ホールで岡本はピン奥1㍍半につけた。そのライン上にスパイクマークがあった。
「軽い下りのスライスライン。もし私が優勝できるとしたら、そのスパイクマークは全然関係ない(影響されない)だろうと思って、悩んだ挙句に決心して打ちました。そしたらピュンと跳ねて外れたんです。仕方なかったですね」
次が、1989年の全米女子プロだ。
「メグ・マローンとパット・ブラッドリーと私で争って、最終日最終ホールで誰かがバーディ獲ったら勝ちだったんです。みんなチャンスがあったんですよ。私が手前から6、7㍍ぐらいです。軽いフックライン。ボール半分外すか外さないぐらいのライン。私、打った瞬間に入ったと思ってボールを取りに行こうとしたら、カップの淵の5㍉ぐらいの所でピッと右に切れたんです。一瞬(血の気が)サーッと引きました」
米女子ツアーで通算17勝するなど大活躍し、賞金女王も獲得した岡本綾子。彼女にとって、思い残すことがあるとすれば、メジャー無冠。とりわけこの2つ試合での惜敗だろう。
岡本は、こう話を続けた。
「最後のパットを外して血の気が引いて、でも、仕方ないと思って帰路についたんです。クラブハウスを後にして、かなり走った後に、ふとUターンして、そのグリーンに戻って、もう一度、同じ所から打ちました」と言う。
生まれて初めての行為だった。それは、見事に1発でカップに沈んだ。薄暗闇で撤収作業をしていたスタッフたちが、それを見て拍手喝采してくれたという。(文・三田村昌鳳)