プロの飛ばしの秘密は筋肉の使い方にアリ。スポーツ選手の身体運動を知り尽くす東大の工藤先生に、飛距離アップを実現するための、筋肉の使い方を解明してもらった。

ツアー2勝の谷口拓也プロの全面協力のもと、この実験はスタートした。筋電計と呼ばれる装置を肌に直接貼り付け、筋肉が働くときの電気信号をとらえて記録し解析した。

スウィングの真実を筋電図で解き明かす

飛ばしのコツをプロに聞くと、「脚を使うんです」とか、「体幹で振るんです」、はたまた「腕を振らないと飛ばない」などなど、実に様々な答えが返ってくる。ただ、それはあくまでもプロそれぞれの感覚的なイメージにすぎない。 

実際のところ、ボールを遠くへ正確に飛ばせるプロは、どの筋肉を、どのタイミングで、どのくらいの強さで使っているのだろう。その疑問を明らかにするため、身体運動科学の研究者である、東大大学院の工藤和俊准教授に相談。ツアー2勝の実績を誇る谷口拓也プロにテスターになってもらい、ある実験を試みた。

画像: 谷口拓也プロと東京大学 大学院情報学環 准教授工藤和俊先生

谷口拓也プロと東京大学 大学院情報学環 准教授工藤和俊先生

「スウィング動作にかかわる、10か所の筋肉部位にセンサーを装着し、データ計測することで、スウィング中の筋活動を詳細に知ることが可能です。私はこれまでに様々なスポーツ選手やダンサー、音楽家などの筋活動を、この筋電図を使って研究してきましたが、一流といわれる選手は皆、共通した筋肉の使い方をしているんです」(工藤)

実験のためとはいえ、“セミヌード”でドライバーを打つことに、恥ずかしさを隠せない谷口プロ。「もっと早く言ってくれれば、この日のために体を絞ったのに(笑)。スウィングをするときに、特定の筋肉を使って、という意識はないですね。逆に意識しちゃうとスムーズに動けなくなってしまいます。だから今回の実験はとても楽しみ。自分のスウィングがまさに“丸裸”になるわけですからね」(谷口)

筋肉の情報は波形となって表れる

すべてのセンサーから集まった情報がリアルタイムで転送され、波形となってパソコに表示される。

画像1: 筋肉の情報は波形となって表れる
画像2: 筋肉の情報は波形となって表れる

筋電図では人間が運動動作をした時に、どの筋肉がどのタイミングで、どれくらいの強さで活動しているのかを計測することが可能。工藤准教授はこれまでに、スキージャンプのオリンピック選手や力士、ダンサーや音楽家などの筋活動を研究。プロゴルファーを計測するのは今回が初めてとか。

計測したのは10か所の筋肉

1 右浅指屈筋  指を屈曲させる筋肉
2 左浅指屈筋  握る強さとタイミングも計測
3 右上腕二頭筋 ひじを曲げる時に使う筋肉
4 右上腕三頭筋 ひじを伸ばす時に使う筋肉
5 左上腕三頭筋 左ひじを伸ばす筋肉
6 右外側広筋  ひざを伸ばす筋肉
7 左外側広筋  右との比較で体重移動を解析
8 右大腿二頭筋 ひざの屈曲と股関節の伸展
9 左大腿二頭筋 左ひざを伸ばしヘッドを加速
10 右外腹斜筋  体を左右にねじる筋肉

画像: 計測したのは10か所の筋肉

アドレスからテークバック

筋肉はセンシングしている

筋肉は何もしていない時はセンシングといって、常にセンサーを働かせています。アドレスからの動き初めは左手の浅指屈筋が活動し始めます。右手はほぼ添えているだけの感覚で、インパクト直前まで活動していません。

画像: 筋肉はセンシングしている

テークバックでの特徴は、始動時にグリップ圧が高くなるのは左手だけ。右手はグリップに添えたまま。左手の前腕にある浅指屈筋に活動が表れています。(工藤)

これは、左手のリードでスウィングしている証。右手のグリップが強くなるインパクト付近は、インパクトの衝撃に対応するために一瞬だけ強い力で握っている。

トップからダウンスウィング

右脚のハムストリングがパワーを生む

右脚が活動を始めるのはテークバックからトップで体重が右に移動したあたりから。ダウンスウィングで地面を強く踏み込み切り返して、インパクトを迎えるまで活動が強まる。右脚ハムストリングスの活動はインパクトの直後で終わる。

一方、左脚はインパクト直前から活動をはじめ、インパクト後フォロースルーまで活動していることが分かる。このことから、ダウンスウィングの切り返しで右足を踏み込んで左へ体重を移動させ、インパクトでは左足で受け止めていることが分かる。

画像: 右脚のハムストリングがパワーを生む

次回はインパクトからフィニッシュを解析します。

月刊ゴルフダイジェスト2016年7月号より一部抜粋。写真/増田保雄

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