現在、世界各国で適用されているゴルフルールは、ゴルフの元締めともいうべきR&Aのルールが基本となっている。R&Aで用具に関するルールが初めて作られたのは1907年のことだった。そのきっかけになったのが、1904年の全英アマで米国のウォルター・トラビスが使って優勝したセンターシャフトのスケネクタディパターである。

画像: http://www.thegolfballfactory.com/

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ウォルター・トラビスは英国人以外で最初に全英アマを制した選手である。それも原因になったかどうか定かではないが、直接的には彼が使ったパターを規制するため、用具に関するルールが取り決められた。

それ以前のパターに比べるとスケネクタディは異様に見えたのかもしれない。それまでパターといえば、ヘッドの長いロングノーズ型しかなかったのだから……。

トラビスの優勝で、スケネクタディは大流行した。先取の精神にあふれた米国ではルール違反にならず、当時のハワード大統領も使用していたようだ。このスケネクタディから派生し、T字型のパターが作られた。キャッシュインタイプの原型となったものだ。

画像: T字パターの代名詞、アクシネット・ブルズアイ。プロがお金を稼ぐパターという意味で「キャッシュイン」と呼ばれた  clubsofdistinction.com

T字パターの代名詞、アクシネット・ブルズアイ。プロがお金を稼ぐパターという意味で「キャッシュイン」と呼ばれた

clubsofdistinction.com

パターの歴史を振り返ってみると、ロングノーズ型、T字型、そしてスケネクタディと3つのタイプがその後40年も主流を占めてきた。ロングノーズがL字型になったりという小さな変化はあったが、パターの歴史はここで止まっていたといっても過言ではない。

その後、およそ半世紀ぶりにパターに革新をもたらしたのが、カーステン・ソルハイムが開発したピンパターである。ピンは形状ばかりでなく、性能においても偉大な革新をもたらした。発表当初、ピンパターを見た人たちは一様に、その特異なカタチに驚いた。何しろ、最初のモデル「1-A」は、ちょうど箱の中からシャフトが飛び出しているようなパターだったのだから、皆が驚くのも当然だったろう。

その後の1966年から発売されたアンサーシリーズにしても同じだ。L字やT字を見慣れた目には、異様としか映らず、その曲がったネックから「Plumbers nightmare(配管工の悪夢=あんなに変な管は直しようがない」と揶揄されていた。

画像: アンサー誕生50周年を記念して、2016年春に数量限定で発売された「TR1966 アンサー」(金色)と「TR1966 アンサー2」(銀色)。クラシックな雰囲気を保ちつつ、フェースには最新の溝加工が施されている

アンサー誕生50周年を記念して、2016年春に数量限定で発売された「TR1966 アンサー」(金色)と「TR1966 アンサー2」(銀色)。クラシックな雰囲気を保ちつつ、フェースには最新の溝加工が施されている

バックフェースをくり抜いたような大きなヘッドと、クネクネと曲がったネック。何となく”科学した”ように見えたというのはいい方で、大方はグロテスクとしか感じなかった。ことに、使い慣れた道具にこだわるプロたちにとって、今までのパターに比べてどんなにか違和感があったかは容易に想像できる。

特異な形にも驚いたが、さらに驚いたのはその性能である。性能を追求した結果、(当時としては)異様な形になったのだろうが、それにしてもピンのパターは、フィーリング優先で作られた従来のパターのイメージをガラリと変えてしまった。おそらく、図面を引いて作られた史上初のパターではないだろうか。

画像: アリゾナ州フェニックスのPING本社そばには、創業者に敬意を表した道の名前が……

アリゾナ州フェニックスのPING本社そばには、創業者に敬意を表した道の名前が……

既知の通り、アンサーパターの大きな特徴としてヒール&トウバランスが挙げられる。ヒールとトウに重量を配分することによって、スウィートスポットを外してもフェースのブレが少なくなるという理論である。結果的に、ワイドスウィートエリアになるわけだ。

ただし、一般にはカーステンが初めてヒール&トウ理論を開発したと思われているようだが、厳密には誤りである。カーステンより40年以上も前にこの理論を打ち立てた人物がいたのである。英国ノーフォーク州に住んでいたギルバート・リーがその人物で、1915年5月、彼はアイアンに関してヒール&トウバランスを特許申請、米国ではこれが認められた。ただし、保守的な英国では一蹴されたという記録が残っている。

カーステン・ソルハイムがそれを知っていたかどうかは不明だが、いずれにしてもパターにヒール&トウバランスを採用したのは彼が初めてであり、あらゆる意味で、これがピンのスタートとなったのだ。

ワイドスウィートスポットと同時にワイドソールもアンサーの大きな特徴だ。ヒール&トウバランスとも関連することで、ソール幅を広くすれば、従来のヘッドでは当然重量が重くなってしまう。従って、フェース裏側の中央部分をえぐり取ると、自然にヒールとトウ側に重量が配分されるのだ。

アンサーパターの抜群の安定感は、単に幅の広いソールだけによるものではない。それは、マイナスになったソール角が微妙に絡んでいる結果、生まれるのだ。

画像: 最初期のアンサー、通称”スコッツデール”をトウ側から見たところ。スクープソールになっており、ボールをどこにおいて構えてもエッジが突っかからないという

最初期のアンサー、通称”スコッツデール”をトウ側から見たところ。スクープソールになっており、ボールをどこにおいて構えてもエッジが突っかからないという

目標に向かって真っすぐテークバックして真っすぐに出そうとすると、ヘッドは必ずローリングする。決してグリーンの面と平行にはならない。そのため、ソール幅を広くするとトレーリングエッジ(ヘッド後方のエッジ)がグリーンに引っかかりやすい。その解決策として考案されたのが、ソール角がマイナスになったスクープソールなのである。

※チョイス1985年9月号などから再編集

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