112年ぶりのオリンピック競技復帰にゴルフ界は沸いた
正式種目への復活が決まったときゴルフ界は盛り上がった。会場となる新設コースの設計に関してアーノルド・パーマー、ジャック・ニクラス、ゲーリー・プレーヤーのビッグ3をはじめ、アニカ・ソレンスタムやロレーナ・オチョアまで、世界の名だたる設計事務所が名乗りを上げ大規模なコンペが模様された。「これで新たな競技人口の獲得が約束された。ゴルフの未来は明るい」という人たちも。
「大会後」も見据えてコースを設計したが……
そしてコンペを勝ち抜き設計を任されたのが素人には知名度の低めなギル・ハンス氏率いる設計家チーム。敷地がリオデジャネイロ郊外の環境保護地区に隣接しているため、環境保護団体の意向に配慮しつつ「ブラジルのゴルフにどのようなレガシー(遺産)を残すか」をテーマにコースづくりが展開された。
さまざまな困難を乗り越え五輪を開催したまでは良かった。男子はジャスティン・ローズ、女子はパク・インビが金メダルに輝き、出場した選手全員が国旗を背負って戦うことの意義を見出していた。
ところが閉幕後すぐに問題が発覚する。折角誰もがプレー可能なパブリックコースを建設したにもかかわらず、お客がまったく来ないのだ。
ゴルフができるほど経済的余裕を持つブラジル人は少ない
そもそも人口2億人強のブラジルでゴルフ人口はわずか3万人程度。深刻な不況が続く昨今ゴルフに金を捻出できる中間層、富裕層が極端に少ないのが現状。ちなみにグリーンフィーは80ドル前後というから1万円弱で、物価に対してお高めの設定だ。
日々の来場者はごくわずかで、関係者によると「五輪が終わってから一切メインテナンスがされていない」こともあり、カピバラやワニなど野生動物の姿の方がゴルファーよりも多いらしい。
このままではコースそのものが野生動物の楽園に逆戻り。クラブハウスにはプロショップもなく、当然ヘッドプロもおらず、従業員の姿はカフェで働くウェイターが1人。あとはグリーンフィーを集めるスタッフが1人。想像してみよう、がらんと静まり返った光景を。うーん、なんとも寂しい。
2020年東京五輪も無視できない“レガシー問題”
コースの運営を任されている会社は、本来なら支払われるべき経費がブラジルゴルフ協会から支払われていないと取材に訪れたフランスの取材チームに訴えたという。やがてここでオリンピック競技が行われたことなど忘れ去られてしまいそうだ。
現地を取材したフランス人記者は「このままの状態が続けば、このコースは早い段階で死に絶えてしまう」と嘆いている。2020年の東京五輪に向け盛んに議論されるようになったレガシー問題。リオの現状を見るにつけ決して他人ごとでは済まされそうもない。