「H-030」をご存知だろうか。2016年11月に発売された、フォーティーンのいわゆる“お助けウェッジ”だ。「はいはい、チッパーね。興味ない」という方、ちょっと待ってほしい。このウェッジの機能は、ショートゲームの概念を大きく変えてしまうかも!?
見た目はまるで「ウッド」
H030を構えた人は、みんな驚く。「なんだこりゃ、まるでウッドだ!」と。そう、その見た目はウェッジとは言い難い、まるでウッドのよう。まるで卵を日本刀で斜めに一刀両断し、切り口にフェース面を貼り付けたような、そんな形状をしている。
強い丸みを持つソールに、ウッドライクな中空ヘッド、シャフトよりも前に出た、いかにもボールを拾ってくれそうなリーディングエッジ。すべてがこう主張している「僕、ダフリませんよ」と。というわけで、ショートゲームでのザックリに悩む編集部員Oが早速ゴルフコースで実地テストしてきた。
本当にダフらない
冬場のグリーン周りは難しい。芝が枯れ、ボールと地面との距離が近づくことから、わずかなダフリでも飛距離が大きく落ちてしまうからだ。無論、ダフリを警戒するあまりにトップのミスも出やすくなる。いいライからならパターなどで寄せることも可能だが、それができないライもある。
たとえば実戦テストで実際に出くわしたこんなライ。グリーンを大きくオーバーしたボールが、奥のラフで止まったケースだ。ちょっとのダフリも許されなさそうな嫌なライ。小さいグリーンのピンまで打ち上げで、落下地点は下り傾斜。最悪の状況だ。
通常のウェッジであれば、フェースを開いてロブショット気味に打つか、あるいはピッチングウェッジなどに持ち替えて、手前にワンクッション入れるかといった難しい判断を迫られる場面だが、H030にそんな悩みは無用。パターのようにシャフトを真っすぐに構えて掃くように振れば、ソールが滑って勝手にボールを上げてくれた(ロフト56度のSWを使用)。呆れるくらいにカンタンだ。
バンカーからも楽々脱出できる
バンカーショットの場合はどうだろうか。実際にガードバンカーにつかまったので、実地検証してみた。このクラブはハンドファーストではなくシャフトがターゲットラインに対して垂直になるように構えたときに、フェースがスクェアになる。なので、バンカーでも構え方は普段と同じ。フェースを開く必要も、スタンスの向きを変える必要もないし、またその必要性を感じない。
下手に小細工をしては検証にならないので、前に挙げた状況と同じように、パターをストロークするイメージで振ってみた。結果、ナイスアウト。実にあっけなく出た。
上の写真はその打った後。手前から入ったヘッドが、砂の中をグングン滑ってボールを砂ごと搔き出し、そのまま薄く抜けている。平均スコア90台のアベレージゴルファーのバンカーショットの跡には見えないが、このクラブを使うと自然にこうなる。
課題は距離感。そしてもちろん、“トップはする”
9ホールすべてのアプローチをH030の「AW(50度)」と「SW」で行ったが、ミスは一回きり。そのミスはズバリ、トップ。ダフリのミスは一回もなく、そもそもちょっとのダフリだとミスにならない(それがミスだと認識できない)。
普通に打って、普通に寄って、打った跡を見てずいぶん手前から入っていたことに気づく、といった具合だ。そしてなにより「ウッドみたいな顔」の安心感がすごく、ミスをする気がしない。「ミスをする気しかしない」普段とは、まるで逆の心境でアプローチに臨むことができるのだ。
ただ、前述したようにトップは出る。ダフリは出ないがトップは出るので、トップが出ないように気をつけてさえいれば基本的にはオッケーだ。そして、これも慣れれば問題はないだろうが、距離感は最初ちょっと合わせにくい。
基本的に、パターのようなストロークをしたくなるので、振り幅と距離の関係が最初ちょっとわかりにくいのだ。また、フルショットをすることも可能だが、やはり通常のウェッジとは距離感が変わるので、そこにも慣れが必要だろう。
実地テストしたところ、個人的にはこのクラブ、継続的に使ってみたいと思わせてくれる性能を持っていることがわかった。「見た目が恥ずかしい」という気持ちはわかる。しかし、これだけの結果を見せつけられたら話は別だ。「恥ずかしい見た目」だとしても、それで難しいライからひょいひょい寄せたら、周りの評価は逆転するはずだ。
ショートウッドも、ユーティリティも、大型マレットパターも、そもそもサンドウェッジだって、最初は異形クラブだった。それがその性能によって認知を変え、今ではそれらのクラブを持っていて「恥ずかしい」という人はいない。異形クラブは、ゴルフを変える。この未来から来たような形状のウェッジも、もしかしたらそんな“ゲームチェンジャー”のひとつなのかもしれない。