マキロイが10年来のキャディとコンビを解消
銀行口座に突然1億円を上回る金額(正確には105万ドル)が振り込まれていたら、あなたならどうする?
そんな嘘のような本当を体験したのが今回の物語の主人公のひとりJ・Pである。0が盛大に並んだ通帳を手にキツネにつままれたような思いをしながら、すぐに贈り主にメールする。「まるでツナミに襲われたみたいだ。本当にありがとう!」
これは雇い主=マキロイに宛てたメール。昨シーズンの米ツアー最終戦、ツアー選手権を制し逆転で年間王者に輝いて手にした1000万ドルのボーナスのうち、10パーセント強をキャディに振り込んでいたということだ。
プロになって間もない十代の頃から10年近くバッグを担いでくれたJ・Pは、マキロイにとって人生に欠かせないパートーナーのひとり。4つのメジャーを制覇し、世界ランク1位に上り詰め、ポストタイガーの騎手としてゴルフ界を牽引してきた彼の隣にはいつだってJ・Pがいた。
肋骨の疲労骨折でシーズン半ばに療養を余儀なくされ、復帰しても思うようなプレーができずに苦しんだ。連覇がかかった地元のアイリッシュオープンでは良いところなく予選落ち。
全英オープンでも初日の出だしからつまずき、ラウンド中J・Pに「お前はローリー・マキロイだろ。しっかりしろ」と喝を入れられた。その言葉で目を覚ましたマキロイは尻上がりに調子を上げ4位タイに食い込んだ。さすがはアーニー・エルスやダレン・クラークといったメジャーチャンピオンのバッグを担いできた名キャディである。
ところが……。
全英オープンを終えるとマキロイはひとつの結論を出す。J・Pとの別れである。
「解雇とかクビとかじゃない。むしろ自分の問題なんだ。J・Pは(別離を決めた)いまでも親友だし、僕の人生に欠かせない大切な存在。この貴重な友情関係を維持するためにも、一度関係を解消する必要があったんだ」
マキロイによると特に最近、ミスをするとキャディに当たることが多くなったという。「カッとなってJ・Pにひどい態度をとってしまう。そんな自分が嫌になったんだ。特に友人にはそんな態度とりたくない。ミスをしたらキャディじゃなく自分を責める、そんな自分になりたかった。彼には心から感謝しているし、本当に難しい決断だった 」
いささかキレイごとにも聞こえるが、それがマキロイがJ・Pとの別離を決意した理由。雇い主とキャディという関係ではなく、友人関係を守る方を選んだというわけだ。
次のキャディはなんとビジネスマン?
後任は4月の結婚式で介添人を務めた地元の親友ハリー・ダイヤモンド氏。アマチュアゴルファーとして名を馳せるビジネスマンは、WGCブリヂストン招待と全米プロの2試合でバッグを担ぐことが決まっている。
「そこから先? まだわからないけれど、ハリー(ダイヤモンド)が続投するかもしれない。仕事もあるし、僕というより彼の都合次第。いつかまたJ・Pに担いでもらうことがあるかもしれないしね」
フィル・ミケルソンが25年間コンビを組んだボーンズことジム・マッケイ氏と別れたばかり。選手とキャディの間には、他人にはうかがい知れない事情がある。1つの忘れ物がコンビ解消の引き金になったりするのは、夫婦の関係と似ているかもしれない。
全米プロでは元タイガーのキャディで、第一線を退いたあともメジャー大会では必ずアダム・スコットのバッグを担いできたスティーブ・ウィリアムス氏の起用をスコットが見送ったのだとか。時代は変わっても名物コンビが紡ぐストーリーを観続けていきたいものだが…。
写真/姉崎正