逆目のアプローチはフェースを返す
ジャンボといえば、かつては若手プロは近づけないようなオーラがあった。しかし、最近の若手はむしろジャンボのことを慕い、気軽に声をかけ、教えを請うようになっている。ジャンボも聞かれれば惜しげなくその技術を若手に伝えるため、ツアー会場で即席の“ジャンボ塾”が開かれることもしばしば。
三井住友VISA太平洋マスターズの練習日にもそんな場面が見られた。“レッスン生”となったのは藤本佳則。フォン・シャンシャンの勝利で幕を閉じた「TOTOジャパンクラシック」で、ジャンボがある女子プロに目を留めたところから話は始まる。
「レクシー(・トンプソン)を見たんだよ。あの子は男並みに飛ばすな! 脚もピンと伸びててな」
飛距離には並々ならぬこだわりを持つジャンボだけに、女子プロを見てもやはりその飛距離に目を奪われるようだ。そして、話はこれで終わらない。
「アプローチが下手だったなぁ。グリーン周りはチャックリばかりだった」
と、レクシーの小技を“批評”したかと思ったら、おもむろに練習打席の後ろのラフにボールを置き、ウェッジを一閃。いとも簡単にボールをとらえる超絶技術を披露して見せた。それに反応したのが藤本佳則。藤本はラフからのアプローチではフェースを返さずに振っているらしく、フェースを返すジャンボの打ち方は衝撃だったのだ。ここからは、その時のやり取りをノーカットで再現しよう。
藤本:え! フェース返してるんですか?
ジャンボ:おまえ、当たり前だろ。返すからスッと引っかかりもしないで抜けるんだよ。
藤本:それで球は死にますか?
ジャンボ:マン死に!
この打ち方で、ランが出ない“死に球”が打てるのかと聞いた藤本に対し、ジャンボは目一杯振るときに使うプロの俗語“マン振り”の“マン”を使って、目一杯死んだ球が打てるという意味で“マン死に!”と答えたというわけだ。
「アプローチはここが大事なんだ。フェースを返さないようにするからダフるし、抜けないんだよ。こうやって右手をグッといれるんだ」と、逆目のラフからは右手を立てるように使えと藤本の手をとってレクチャーするジャンボ。
それに対し、藤本は「立てるんですか? こんな使い方? わからんなあ。でも実際ジャンボさんはできてるからなぁ。誰かボクに味方してくれる人いませんか(笑)」と困惑気味。しかし、レジェンドからの指導により、新たな“引き出し”を得たことは間違いない。
さて、この「ラフからは右手を使ってフェースを返しながら振れ」というジャンボレッスンは、アマチュアゴルファーにも有効なのか? 現場に居合わせたプロゴルファー・中村修に聞いた。
「写真を見ると、右手のひらを地面に向けて押し込むように使っているのがわかりますね。こうすると、ヘッドはゆるやかにターンしながらインパクトゾーンに浅く入り、浅く抜けて行きます。そのため、ダフリなどのミスが出にくくなるのだと思います。
ただ、ジャンボさんは手の動きだけでアプローチしているわけではなく、小さなスウィングでもしっかりと胸やお腹を回しています。あくまでも体の回転を主体にしつつ、手の使い方をプラスする。そこを参考にするといいと思います」(中村)
通算113勝を誇る尾崎将司の技術が突然公開される、ツアーで不定期開催の“ジャンボ塾”。次回が楽しみだ!