昨年のQTの経験が生きている
有村は2012年の米女子ツアーの予選会を通過し、2013年シーズンから戦いの舞台をアメリカに移しました。1年目こそトップ10内に3度入るなど健闘しますが、2年目でその数はゼロに。
そして2016年の国内のQTを経由して、今シーズンからは再び日本女子ツアーを主戦場に戦っています。現在賞金ランクは57位。前半戦の出場権を得られる55位とは約30万円差だ。
「現状、焦っているという気持ちはありません。自分自身は去年QTからきている選手なので、落ちるというよりは這い上がっていく立場だと思っています。出場権を失うという感覚はないですね」(有村)
本人が現状をこう語るように、焦燥感は感じられませんでした。シード権などがかかった状況では選手はどうしても結果を求めがちになります。しかし有村はこれまで国内メジャーでの優勝、米ツアーの予選会、そして昨年のQTと多くの経験があるため、このあたりのメンタルのコントロールが非常に上手いなと感じました。
これは大きな強みです。試合中プレッシャーがかかる場面ではフィジカルやテクニカルな部分よりも、メンタル面がより大きくショットに影響をします。トッププロでもメジャーで最終日のバック9に突然崩れたり、逆に大きくまくる選手がいるように、プレッシャーのかかる状況ではパフォーマンスの土台となるがメンタルなのです。
追い詰められた状況でも、時折笑顔を見せ「ポジティブに考えられている」というように、目先の結果を求めてパフォーマンスが低下する事はなさそうです。
復活のカギとなるアイアンショットのキレ
追い込まれた状況でもメンタル面が崩れていない反面、スウィングの質とショットの精度は全盛期と比べると物足りないというのが現状です。
米ツアー挑戦前の2009年~2012年にはパーオン率が常にベスト10であったように、有村の武器はなんといっても精度の高いアイアンショットです。クラブの運動量が多くヘッドに仕事をさせるタイプの選手が多い女子プロにおいて、有村はコンパクトな振り幅の中でフェース面をコントロールしてラインを出していました。
このように体と腕のシンクロの高いスウィングをするためには、手先の動きではなく下半身でエネルギーを生み出す必要があります。男子に比べ、身長が低く筋力が劣る女子は、いかにこの下半身の力を効率よくクラブに伝えていけるかが肝になりますが、強い時の有村は常に体のエネルギーをしっかりと使ったリズムのいいスウィングの動きができていました。
今のスウィングには躍動感やリズムの良さが感じられず、どこか苦しそうに振っているようにみえますが、これは始動の際のクラブの動かし方によるものです。ダウンスウィング時に下半身リードでクラブを下ろしてくるためには、始動から下半身を動かす必要があります。
しかし今の有村は上半身から始動しているため、テークバックで動きがもたつき、切り返しで上半身から動きがちになります。スウィングで体が動く順番がバラバラになり、動きの連動(キネクティックチェーン)ができていない事が最大の問題です。
ただ本人もそれは自覚できているようです。
「腕で(クラブを)アウト(体の外側)に上げて、体が回りきらずにバックスウィングし、クラブを寝かせながら打つ癖があります。だから体を回して、手で上げないように気をつけています。テーマは腕と体の同調ですね」(有村)
これができると、全盛期のように「高いフェードが出る」と言っており、その精度を上げていくことが今後の課題となりそうです。
昔から、試合会場では日没直前までパッティンググリーンでボールを転がしていました。その姿は今も変わりません。また、女子プロでは珍しく若いころからコーチをつけるなど、自分の課題を整理できる力はあり、課題も明確になっています。だからこそ焦燥感にかられることなく笑顔でいる事ができるのでしょう。
写真/岡沢裕行