動き出したら止まらない。それが「イーチ」のリズム
通常のレッスン書ではあまり重要視されませんが、僕はリズムこそがスウィングでもっとも重要な要素だと思っています。ただ動きの形だけを理解することは、仏像を作って魂を入れないのと同じこと。そして、ゴルフスウィングの魂、それこそが「リズム」だと僕は思っています。
さて、正しいリズムを身につけるために、まず最初は「リズム」という言葉を正しく理解することから始めましょう。よく、リズムという言葉は「テンポ」という言葉と混同されがちですが、両者は全く違う意味を持ちます。
具体的にいえば、「テンポ」とは速度のこと。1回のスウィングを何秒で行うか、それを表すのがテンポで、基本的に「いい、悪い」は存在しません。自分の振りやすい、心地よいテンポで振ることをすすめます。
それに対してリズムは、「チャー・シュー・メン」や「イチ・ニ」などで知られるような、スウィング全体の流れを決定するもの。つまり、いわゆる「スウィングリズム」とは、テンポのことではなくリズム(拍子)のことだということをまずは理解してください。
そして、リズムはテンポと違い明確な「いい、悪い」が存在します。はっきりいって、「チャー・シュー・メン(3拍子)」や「イチ・ニ(2拍子)」のリズムで振っていては、飛んで曲がらない、理想のスウィングはできないのです。
なぜか。それは、「チャー・シュー・メン」にしても「イチ・ニ」にしても、間に「・(点)」が入ってしまうから。「・」を意識すると、動きが一瞬止まってしまいます。それは0コンマ何秒かの刹那ですが、動きの流れが断ち切られてしまう。
では、どんなリズムが正しいのでしょうか。ずばり、「イーチ(1拍子)」のリズムです。
タイガーも、「イーチ」で振っている
始動の瞬間が「イ」で、フィニッシュが「チ」。その間に「・」はなく「ー(伸び音)」しかない。つまり、止まる部分がひとつもない。動き出したらフィニッシュまで動き続けるリズム。それが「イーチ」のリズムなんです。
先ほど、テンポは人それぞれ違いがあるし、あっていいといいました。しかし、リズムに関していえば、テンポの速いタイガーも、テンポの遅い宮里藍選手も、「イーチ」のリズムで振っています。テンポの違いにより、タイガーなら「イーチ!」宮里選手なら「イーーーチ」という、イメージ上の違いはありますが、始動からフィニッシュまで一度も止まることのないリズムで振っている点は共通しています。
もちろん、アメリカ人のタイガーが、実際に頭の中で「イーチ」という言葉を思い描いている可能性は極めて低いですが(笑)、リズム自体を客観的に分析すれば、「イーチ」のリズムであるといえます。
ちなみに、この「イーチ」のリズムは、ゴルフに限らず、すべてのスポーツに共通した動きのリズムです。野球のピッチング、テニスのフォアハンド、サッカーのフリーキック......どれも、動き出したら最後まで止まらず動き続けています。
さて、この「イーチ」のリズムで振るためには、ちょっとした条件があります。それは「イーチ」のリズムを手ではなく、体幹の動きで作ることです。体を止めて腕だけを振るスウィングをしていては、「イーチ」のリズムでも「チャー・シュー・メン」でも結果はたいして変わりません。あくまで、体の動きでリズムを作る。そのことを忘れないでください。
また、この「イーチ」のリズムは、ここ一番の場面でのミスを減らす作用もあります。
たとえば「チャー・シュー・メン」の場合、「シュー」と「メン」の間、体の動きは一瞬止まります。その一瞬の間に、ゴルファーは実に色々なことを考えます。「ちゃんと当たるかな?」「右のOBに行くのも嫌だな」などなど。
そして、その一瞬の躊躇や一抹の不安が、ダウンスウィングへ移行するタイミングを狂わせてしまいます。その結果、焦って手の力で打ちにいってしまったり、無駄な力みを生んでしまうんです。これは、ベストスコアがかかった最終ホールや、左右にOBがあるホールなど、緊張感が高まる状況ほど、顕著になります。
その点、「イーチ」のリズムは、動きが最初から最後まで連続し、考えるヒマがありませんから、余計な思考が入る隙間も生まれません。そのため、曲げたら即OBの難ホールだろうが、絶対にパーで上がりたい18番ホールだろうが、つねに一定の心理条件でショットが打てるのです。
最後にもう一点だけ。ドライバーからアプローチまで、すべてのショットで「イーチ」のリズムを意識するようにしてください。
最初はアプローチでリズムに慣れ、徐々に長いクラブでも同じリズムで振るようにすると、身につけやすいと思います。ぜひ、次の練習の際に試してみてください。
吉田一尊(よしだ・かずたか)著書:「セカンドショットは、ウェッジで。」(ゴルフダイジェスト社)より※刊行当時の名前の表記は吉田一誉
写真/有原裕晶、増田保雄