米PGAツアーでは選手の平均飛距離はここ30年で約30ヤード伸びています。飛距離アップの要因としては、トレーニングによる肉体改造や、選手層のレベルアップ、コースコンディションの向上によるものなども考えられますが、やはり最大の要因はクラブとボールの品質の向上にあります。
一方で、パーシモンドライバーや糸巻きボールで育ったプロにとっては、用品の進化による飛距離アップがそのままメリットとして働かなかったようです。
パーシモンドライバーや糸巻きボールはスピン量が多かったため、たとえばクラブフェースのトウ側の上でボールをとらえることでスピン量を低下させたり、林の下を通すようなローボールを打ったりと、特別な打ち方が必要でした。
現在ほとんどのボールはウレタン素材で作られているため仕上がりは均一ですが、かつての糸巻きボール時代は均一性に欠けていました。選手からすれば、ボールが確実に思った様な飛び方をしないのであれば、安全策として、低い球を打つことによってボールを早く地面に落下させようと考える。その様な背景もあり、かつては低いボールがもてはやされたのです。
そもそもプロゴルファーは不確定要素を嫌います。自分のフィーリングで「完璧」と思ったショットがイメージと違う方向に飛んでいくことで「なぜ」という疑問が生じてしまう。この「なぜ」という疑心暗鬼の心が勝敗を決する要因になってしまうからです。
先ほども言ったように、現代のボールは均一性にも耐久性にも格段に優れています。糸巻きボール時代にあった「ボールが原因の曲がり」という要素が排除されたことにより、プレーヤーは「安心してボールを叩ける」ようになったのです。それに伴い、現代は、かつてのようなローボールではなく、打ち出し角の大きいハイボールが主流となっています。
私は20世紀のゴルフと21世紀のゴルフの決定的な違いは不確定要素の多さにあると感じています。ボールなど用具に限らず、各種計測器の登場や進化により、現在のゴルフにおいては、不確定要素が前世紀に比べて大幅に減っています。そしてその結果、以前に比べると驚くほどアスリート化したゴルファーたちが誕生しています。
プロコーチとしては「勝利」の為に不確定要素を減らす指導をしていますが、それは決してゼロにはなりません。用具の進化を常に追いながら、しかしそれだけでは決してないゴルフの真実を追求し続けたいと思います。