毎週変わる芝質にどう対応できるか
日本から米LPGAツアーに参戦をしてもコンスタントに結果を残す選手は一握りです。プロ転向1年目ながら日本女子オープンを連覇し、日本ゴルフトーナメント振興協会のルーキー・オブ・ザ・イヤーに輝いた畑岡も、米ツアーでなかなか結果を残す事ができませんでした。
プロ入り前はナショナルチームに選ばれており海外でのプレー経験もありましたが、それでも出場した半数以上の試合で予選落ちを喫してしまいました。日本からアメリカに渡った際、プレー面で障壁となるのが飛距離と芝への対応です。日本人の中では平均以上の飛距離を誇る畑岡も、米女子ツアーではドライバーショットでアドバンテージを得ることはできませんでした。また、芝への対応もかなり苦心をしたといいます。
東西南北に広いアメリカでは、開催コースによって芝質が異なります。基本的にはバミューダやベントのような洋芝ですが、同じ芝でも長さや時期によってさまざまな打ち方が要求されます。洋芝は日本で多く使われる高麗芝よりもヘッドが抜けにくくスピンコントロールも難しくなります。その上、グリーンも地域によってコンパクションが異なるため、アプローチに多くの引き出しが必要とされるのです。
元女王が語った成功のカギは「食べること」
戦うフィールドが変わる難しさをもろともせず、日本ツアーから米女子ツアーにスポット参戦して優勝を遂げ、さらに参戦1年目に賞金女王に輝いた選手がいます。2005年に韓国ツアーでデビューし、2008年に日本ツアーに参戦し優勝、2009年には米女子ツアー賞金女王になったシン・ジエです。日米両ツアーで環境に適応する期間も特に必要とせず、参戦後すぐに結果を残しています。
韓日米とツアーを渡り歩いたシン・ジエに環境に適応する秘訣を聞きました。
「技術的にはとくに対策ということはしてなかったんですよ(笑)」(シン)
当時韓国ツアーでは敵なし。日本ツアーに参戦初戦で優勝し、その年に全英女子オープンを制するなど飛ぶ鳥を落とす勢いのシン・ジエにとって、技術的な練習よりもその勢い、コンディションを維持することが重要だったようです。
「試合が終わったあと、気持ちや身体のコンディション維持という点は気にかけていました。とくに食事には気を使いました。食べる量が減ると、目に見えて体力が落ちていくんです。だから私が一番気を付けていたのは、食事の量を減らさない事です」(シン)
「食べるもの」と聞くと軽く見られがちですが、試合が続く遠征において食事はもっとも重要なコンディション維持の方法です。とくにアジア選手は今まで慣れ親しんだ食事とは異なるアメリカの食文化にどう対応して体調管理をするかは大事な課題です。また米ツアーは、日本ツアーと比べると試合数が多く、移動距離も長いことが負担になったと言います。
「米ツアーに参戦したときに苦労したのは移動です。移動距離が長く、試合数が多いうえに毎試合自分で荷物やクラブを運びます。これは大変でした」(シン)
PGA(米男子)ツアーのトップ選手たちは、長い移動距離をカバーするためにプライベートジェットを使いますが、これは単なる贅沢ではなくコンディション維持の一つの方法です。生活用品とクラブを持って毎週転戦する労力を少しでも少なくすることも、安定した成績を残すためには重要なのです。
「日本に来て一番びっくりしたのは荷物の配達サービスです。宅急便で日本中のどこにいても決まった時間に指定の場所にクラブを届けられます。日本以外の場所ではそんなことはありません。今でも米ツアー選手に会ったら必ず宅急便の便利さを話すくらいです(笑)」(シン)
畑岡もシン・ジエと同じように、参戦1年目でゴルフ以外の大変さも多く経験したことでしょう。その経験を生かしてどうパフォーマンスの向上につなげられるか、楽しみな2年目がもうすぐ始まります。