プロのレベルでは「長所を伸ばす」は間違っている
プロゴルファーのオフの過ごし方にはいろいろあります。1人の方が集中できて良いという選手もいれば、気の合う仲間やコーチと一緒にキャンプを行ったりと、シーズンでいかにいい結果を残すかを考えベストな方法を選んでいます。
私と選手達のオフの取り組みを紹介すると毎年、前年のデータ分析を行い、その結果を踏まえて練習テーマを決めていきます。トッププレーヤーともなると得意分野は既に「伸びしろ」が少ないため、そこを伸ばそうと思っても難しく、もっとも大切な「平均ストローク」を押し下げる効果は限定的です。
したがって、まずは各スタッツ(成績の統計データ)のどこに「伸びしろ」があるのかを分析し、その上で効果的な練習を考えていく必要があるのです。一般論としては長所を伸ばすのが良いと言われていますが、プロのレベルにおいてそれは間違っています。どの分野が短所かをスタッツ分析で発見し、克服することのほうがはるかに重要なのです。
しかしこのデータ分析にも罠はあります。「ドライビングディスタンス」や「フェアウェイキープ率」などティグラウンドからのスタッツは同一条件で計測されたものと考える事はできますが、「パーオン率」や「リカバリー率」「平均パット」「サンドセーブ率」などは、ボールがホールのどの場所にあるかによって結果が影響を受けてしまうからです。
たとえば「平均パット」のデータは、パーオン時にカップまでの残り距離が平均5ヤードの選手と平均10ヤードの選手を同じ計算式で評価してしまっている可能性があります。このようなことから、スタッツ分析にも弱点はあるのです。
しかし現在、PGA(米男子)ツアーでは25ヤード単位の距離別のパーオン率やラフからのパーオン率、パッティングでも1フィート(約30センチ)単位のカップインする確率など非常に細分化されたスタッツが出されています。これによってある程度、条件を統一できるので正確性が増します。
これらのスタッツによって、選手の問題点がどこにあるのかを正しく把握することができるようになりました。これが近年のPGAツアーのレベルアップの一因になっている事は間違いありません。
スタッツ分析の結果、成田美寿々は高校3年で「平均アンダーパー」を達成した
さて話を元に戻すと私自身もスタッツの問題点が分かっていたため、成田美寿々プロはジュニアスクールに在籍してる頃から「平均ストローク」などのデータはもちろん、番手別パーオン率など問題点を細分化して考える取り組みを行ってきました。
この結果、たとえば9番アイアンのパーオン率がPWよりも上回っていれば、PWに何らかの問題点がある事が発見できます。これらの取り組みにより弱点を克服し、平均ストロークは高校1年生で79、2年で75、3年で71.5と飛躍的にレベルアップしていきました。
日本から世界へ数多くのトップ選手を育てるための1つの手段として、スタッツの充実を願いたいと思います。
写真/有原裕晶