スタンス幅を狭くしてブレが少なくなった
昨年12月に行われた週刊ゴルフダイジェストのインタビューで石川遼は「今は95%くらいで打って295Y飛ばすというよりも、まず、85%で打って285Yの精度をどれだけ上げられるかが大事だと思います」と語っていました。
個人的に、この方向性には大いに賛成です。苦戦した昨シーズンのPGAツアーのスタッツ(部門別成績)を見ても、ティショットの指標が100位台後半と悪いのに対し、100ヤード以内の指標は20位台が並び、ツアーでも上位。パッティング、アプローチも悪くありません。
指標を見るに、ティショットがフェアウェイをとらえさえすれば、石川選手はPGAツアーでも勝機のあることがわかります。同じインタビューでは、プレーを参考にする選手はいますかという問いに、ジョーダン・スピースの名前を挙げていますが、今回のようにドライバーで飛距離よりも方向性を重視し、その方向を磨いていけば、勝つチャンスは必ず巡ってきます。
飛ぶ鳥を落とす勢いだった10台の頃「350ヤード、真っすぐ飛ばす」ことを目標に掲げていた石川選手。プロデビューから10年を経て辿り着いた「285ヤードの精度を高める」という意識は、もちろんスウィングにも現れています。
画像1を見てみましょう。左は2017年の日本オープンの練習日でのドライバースウィング。右は、引用したインタビューが行われた日に撮影された改造後のスウィングです。アドレスの段階で、スタンス幅が狭いのが一目瞭然。スタンスは広いほど体重移動が大きいダイナミックなスウィングになりやすく、狭いほど回転重視のスウィングになりやすいもの。この比較からだけでも、飛ばしから正確性へ、というコンセプトが見て取れます。
画像2のトップからの切り返しを見てみると、ややオーバースウィング気味だったクラブが地面とほぼ平行なポジションに収まっています。下半身をダイナミックというよりも静かに使うことで頭の位置を前後左右にブラさず、そのことで回転運動の軸がブレない効率の良い動きができています。
「再現性の高い285Yのドライバーを4日間どれだけ続けられるかが大事」とインタビューで話していた言葉そのままのスウィングと言っていいと思います。
5位タイでフィニッシュした「メイバンクチャンピオンシップ」で、石川選手は24個のバーディを奪いました。これは、全体の2番目のバーディ数。開催コースはフェアウェイを外してもピンを狙えるようなセッティングで、ドライバーの精度が問われない試合であれば、抜群の100ヤード以内のスキルで、すぐにでもこのようなパフォーマンスを発揮できることを示しました。
今回の結果をもって“復活!”というのは時期尚早かもしれません。しかし、松山英樹ら同世代のライバルたちを「そのレベルにないので、ライバルとも思えない」と認め、その上で285ヤードの精度の高いドライバーを4日間を通じて打ち続けるという「石川遼のゴルフ」を確立しようとする今の試みは、着実に成果をあげていくと思います。
そういう意味で、つねに結果を出さなければと思わされるPGAツアーから一時撤退し、日本ツアーに軸足を置くという決断も正解だったのではないでしょうか。2018年が終わる頃、石川遼がワールドランク何位の位置にいるのか、今から楽しみです。
解説:中村修(プロゴルファー) 写真:岡沢裕行、姉崎正