ゴルフ中継の解説者として有名なプロゴルファーのタケ小山は、日本とアメリカではゴルフ中継の商品価値が大きく異なると話す。2012年のトーシン事件から見る、日米のゴルフ中継の違いを著書「ゴルフは100球打つより見てなんぼ!」からご紹介しよう。

ゴルフ中継の商品価値とは

ここでひとつ、日本とアメリカのゴルフ中継に対する取り組み方の違いが、如実にわかる事例を紹介しましょう。

2012年の国内男子ツアー「トーシンゴルフトーナメント」(涼仙ゴルフ倶楽部)で異例の事態が起こりました。優勝争いは池田勇太選手と呉阿順選手。プレーオフに持ち込まれましたが、本戦が雷雨で中断されたこともあり、すでにコース内は真っ暗でした。

18番ホールを使用したプレーオフは、1ホール目で決着がつかず、2ホール目からは距離を短縮して強行。ようやく4ホール目でピンまで45ヤード地点から、まるでバラエティ番組のような、アプローチとパット勝負で決着しました(呉選手が優勝)。こんなことは、世界のゴルフ史でも初めてのことでしょう。

なぜこんなことが起きてしまったのか。それは大会を主管するJGTOが不測の事態に備えて翌日に予備日を取っていなかったり、テレビ中継の問題などもあって、翌日にプレーオフを持ち越せなかったからです。

画像: 最終日のプレーオフでは“まるでバラエティ番組”のような勝負で決着が着いた(写真:2012年トーシンゴルフトーナメント 最終日)

最終日のプレーオフでは“まるでバラエティ番組”のような勝負で決着が着いた(写真:2012年トーシンゴルフトーナメント 最終日)

実は、これと同じような状況がアメリカでもありました。03年にフロリダ州のドラルゴルフリゾートで開催された「フォード選手権」でのことです。ジム・フューリック選手とスコット・ホーク選手が同スコアでホールアウトし、優勝争いは2人のプレーオフに突入。その2ホール目、ホーク選手は約3メートル、フューリック選手は約2メートルのバーディチャンスを迎えていました。

ところが、グリーンに上がってきたホーク選手が、「暗くてラインが読めない」とプレーを中断して、競技委員に「翌日に持ち越したい」と訴えたから、さあ大変です。

大会運営サイドも、フューリック選手も、できれば日曜日に終わらせて帰りたいわけです。しかも、その試合の中継枠は18時までで、18時からはアメリカ人が大好きなNFL(アメリカンフットボールのプロリーグ)の中継も入っている。それでもホーク選手は「打たない」と言って主張を譲らない。結局、運営サイドもフューリック選手も折れて、プレーオフは翌日に持ち越しになったのです。

当時、私はその中継を現地のテレビで見ていて、「明日の朝のプレーオフはさすがに中継しないだろう」と思っていました。しかし、画面に字幕スーパーが流れて、「明日の8時から再開されるプレーオフは、ご覧のチャンネルで放送します」というからビックリ! その時間は、「グッドモーニング・アメリカ」という、アメリカ人だったら誰もが楽しみにしている、朝のワイドショーの時間帯です。しかも、前日のゴルフ中継と「グッドモーニング・アメリカ」は、スポンサーは異なります。

ですから、完全中継ではなく、番組のなかでスポット中継するのかなと思っていたら、なんと、番組のオープニングからすぐにゴルフ中継に切り替わったのです。結局、勝負は2ホール目でホークがバーディを奪って決着がつきましたが、これはアメリカがスポーツ大国だからこそできたことだと思います。私も思わず、テレビの前で拍手喝采してしまいました。

アメリカの場合はツアー側が威厳を持っていて、スポンサーに流されたり、屈したりすることがない。「放送しなくたっていいですよ。それでも私たちは明日の朝にプレーオフをやりますから」という強いスタンスです。

もちろん、全米オープンなどのメジャー大会では、プレーオフの場合は翌日に18ホール行うルールになっているので、予備日も確保しているし、テレビ中継の枠も押さえています。

だからこそ、コンテンツとしての商品価値が高いし、結果として放映権が高く売れる。また放送する側の、「最後まで責任を持って伝えよう」という姿勢にも表れてくるのだと思うのです。こういう部分は、ぜひ日本のゴルフ界も見習ってほしいですね。

「ゴルフは100球打つより見てなんぼ!」(ゴルフダイジェスト新書)より

写真/岡沢裕行

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