「基本給」と「歩合制」をツアーに持ち込んだ
仕事柄「ツアープロコーチって何をするんですか」という質問をよく受けます。そもそも「ツアープロコーチ」とは私が名付けた俗称です。
1997年、アメリカで指導者をしていましたが、米山剛プロや杉本周作プロの呼びかけで、日本のツアーに帯同して指導を行うコーチになりました。その当時、選手と契約をしてツアーで常駐する指導スタイルのコーチがいなかったため、自分のことを「ツアー帯同プロコーチ」と名乗っていたのです。その後、それが周知の事実となりこの名称が広がっていく結果となりました。
当時の日本の指導方法は「師弟関係」によるものが多く、選手と指導者間での金銭の授受も曖昧でした。またほとんどのケースは契約もされていないことが多く、トラブルも多かったようです。そこで私は選手と年間で契約を結び、基本給と成績に応じた歩合制を取り、中長期で結果を出しやすい方法をとりました。
確実に言えることですが、単発のレッスンはプロゴルファーの指導には向いていません。少しスウィングを見たぐらいでは、その選手の長所や短所、性格や個性も知らないままスウィングの修正を行ってしまう可能性があります。それによる弊害すら起こりえます。
竹内美雪プロが勝つために必要なことは? 答えはデータに隠されている
それでは「ツアープロコーチ」は何をしているかというと、簡単に言えば選手を勝利へと導くナビゲーターといった感じでしょうか。技術という点ではもちろん選手の方がはるかに上手いわけで、それでも選手がコーチに信頼を寄せてくれるのは、コーチが選手にとって上達する上で有益な存在だからです。私の場合はスウィングの修正や調整はもちろん、スタッツ(部門別データ)の分析から練習のプランニング、練習環境の整備など、仕事は多岐に渡ります。
スウィングの修正や調整の方法は、ここ5年で劇的に変わってきました。その代表格は弾道計測器・トラックマンの登場です。スウィング指導でも多く使われるようになり、ビデオを使った指導スタイルだけでは手が届かなかった細かいスウィングの調整が可能になりました。
また、ハイスピードカメラの登場も感覚でしか捉えられなかったインパクト付近でのクラブの動きが目視できるようになり、調整がより簡単になりました。近年、プロコーチは数多登場してくる最新機器を使いこなし選手に有益な情報を提供することも役割のひとつになっています。
またこのオフの時期は、スタッツ分析から見える弱点の克服やラウンドを中心とした海外合宿などツアーで勝利するための大事な仕込みの時期でもあります。
ここに平均ストロークトップ5と今シーズン契約する4選手のデータを並べてみました。今回はひとつの例として竹内美雪プロが初シード&初優勝するためにどの様な考え方をするかを少しお見せしたいと思います。
まずシード獲得の為に必要な平均ストロークは昨年度38位相当の72.5にする必要があります。実際は賞金シード圏内ぎりぎりの50位で72.79なのですが、誤差の範囲を考えればこのぐらいの設定で臨む必要があります。また勝利を呼び込むためには、これも昨年度のデータから26位相当の72.0は必要になるでしょう。
これを達成する為に何をするかという考え方をします。それを達成するためにはすべてのデータの改善が必要ですが、このオフの取り組みで平均飛距離は240ヤード近くまで伸ばすことに成功しました。まあ方法論に関しては結果が出てからにしましょう。細かいことは書いたらキリがないので今回はこの辺まで。
もちろんツアープロコーチと選手の関係はひとつではありません。しかし我々が選手の勝利の為に最善を尽くす裏方であることは間違いありません。
写真/亀山修、有原裕晶