「プレー入ります!」それは集中力がONになるスイッチ
「4年弱、茂木宏美プロのキャディを務めさせてもらい、プロキャディとして初優勝も経験させてもらいました。最初に茂木プロにキャディを頼まれた際、『これとこれとこれとこれをやって欲しい』というものを紙に書いて渡されました。茂木プロには多くのことを学ばせてもらいましたが、その原点となったのがそのメモです」
そう語る佐藤さん。我々アマチュアはキャディ付きのゴルフの場合、キャディさんにお願いするのはボールを拭いたり、ラインを読んでもらったり、ピンまでの残り距離やハザードの位置を教えてもらったり……といったところがメインだが、プロの要求は大きく異なるという。
「最初に渡された紙になにが書いてあったか、すべては明かせませんが、そのうちひとつを紹介します。それは『試合中は話しかけない』ということでした。ラインにせよ風向きにせよ距離にせよ、聞かれたときだけ答えてもらいたいという意味です。そして、それとは逆に自分から必ず発する必要のある“かけ声”もありました。それは『プレー入ります!』のかけ声です」
プレー入ります! のかけ声は、プロがアドレスに入る際、キャディがギャラリーに向けて言うもの。茂木プロの場合、そこにはただ「周囲を静かにさせる」以上の意味があったという。
「『プレー入ります!」と発するタイミングは、プロが狙いを決めて飛球線後方に立ち、クラブを立てた瞬間。後からわかったことですが、大勢のギャラリーがいても静まり返るスイッチをキャディの一声でコントロールすることで、茂木プロはプレーのリズムやテンポを作っていたんです」
茂木プロは必ずしも飛ぶプロではなかったが、6勝を積み重ね、出産後もツアーの一線で戦うなど長く活躍した名手。佐藤さんは「ボギーを打っても優勝争いをしていてもリズムやテンポが変わらない、そこに強さの秘訣がありました」と述懐するが、そのリズムを作っていたもののひとつが、「プレー入ります!」という“スイッチ”だったというわけだ。
プロの試合では日常風景と言えるキャディの「プレー入ります!」というかけ声。熾烈なツアーを戦い抜くプロは、そのかけ声すらも集中力を高めるスイッチとして利用していた。我々アマチュアゴルファーも、アドレスに入ったら心の中で「プレー入ります!」とつぶやくと、集中力が高まってナイスショットできる……かも!?
写真/姉崎正