「予選通過をかけたパットは、自分が打つより緊張します」
佐藤大輔さんがプロキャディとして主戦場にしている国内女子ツアーは今季39試合ある。厳しいスケジュールを選手と同様に全国各地を転戦するわけだが、プロからの雇用スタイルとしては年間契約と試合ごとの単発契約に大別される。
男子プロと比べると比較的女子プロは年間の専属契約というのは少ないように感じるが、実際、佐藤さんも今季は西山ゆかり、松田鈴英、高橋彩華の3人をローテーションする形になる。気になるお給料、いわゆるギャランティだが一般的には1週間10万円。ここに交通費、宿泊費も含まれるから、かなり切り詰めて生活しなければならない。
ギャランティはこれだけではなく順位に応じた額も支払われる。仮に優勝した場合、個別の契約によって割合は違うが、例えば10パーセントの契約であれば、一攫千金ということにもなる。それに対して、予選落ちすれば“プラスα”の給料はない。それだけに、入れれば予選を通過したり、順位が上がるようなパッティングのときには自分が打つよりも緊張するとのこと。
プロキャディは、沖縄や離島を除けば日本全国ほとんどをクルマで移動する。もちろん経費面の節約を考えてのことだが、気持ち的に楽な面もあると言う。
「クルマでの移動距離が長いことに関しては、それほどストレスは感じませんね。宿泊は基本的にホテルですが、クルマに泊まることもあるんです」(佐藤)
カットライン(予選通過ぎりぎりの順位)上に選手がいる場合は、朝ホテルを出るときに念のためチェックアウトしなければならない。もしチェックアウトしなければ、予選落ちした場合、自宅に帰るにもかかわらずその日のホテル代も支払わなければならないからだ。佐藤さんには、チェックアウトに関して苦い思い出があるという。
「ある選手のキャディをさせてもらっていたときに、予選通過が難しい成績だったんです。それで当然ホテルはチェックアウトして2日目の朝は出るんですが、そうしたらホテルのフロントでそのプロと会ってしまったんです。当然プロは『予選落ちすると思っているの!?』ってなりますよね。自分の配慮も至らなかったんですが、あれは気まずかったですね。なのでクルマに泊まっていると気が楽な面もあるんですよ」
20キロ近いバッグを担いで、コースを歩き回り、緊張感の中で気持ちを保ち続けることは想像以上にハードに違いない。そんなプロキャディにとっては、部屋の広さやベッドでの快適さよりも、一人の時間が何よりの癒しの時間になるのかもしれない。
写真/三木崇徳