「飛ばさない」ことで縦と横の距離を合わせる
イ・ミニョンの選手の強さは「飛ばさない」という点にあります。
これは「飛ばない」ということとは大きく違います。ミニョン選手の3日間を通したドライバー平均飛距離は246.167Yで10位と、飛距離は十分にあるからです。その上で、彼女のゴルフの強みはあえて「飛ばさない」こと。詳しく見ていきましょう。
サンデーバックナインの15番ホール、パー4の2打目、ミニョン選手は残り124Yから9番アイアンを選択。放たれたボールはきれいなフェードボールでピンの根元につき、バーディ。これによって首位に並ぶことに成功します。勝利を決める上で、キーになった一打です。
風はゆるやかなフォロー。読者のみなさんは、ゆるやかなフォローの124ヤードでどの番手を持つでしょうか? ある程度パワーのある男性ゴルファー同様、ミニョン選手であれば、きっとピッチングウェッジでも十分に届く距離だと思います。しかし、ミニョン選手はあえて大きめの9番を選択し、腰のあたりでフォローを止めるコンパクトスウィングで、“狙い打ち”してきました。
この番手選択に関して、キャディを務めた中川桂輔さんに話を聞きました。
「スタートホールで同じくらいの距離から9番アイアンを選択し、ベタピンでバーディスタートできていました。15番はそれより距離が少しあったのですが、ややフォローだったので同じ感じで行けばピンに寄せられると思っていました」
大きい番手で距離を落とすショットは、風のあるコンディションで非常に強い武器となります。なぜなら、そのような状況では“本来の番手ごとの距離”を打つことは基本的にできず、ほぼすべてがコントロールショットになるからです。
17番ホールのパー4、バンカーから放った2打目のショットもやはり「飛ばさない」ショットでした。中川さんによれば、ピンまで146ヤードのアゲンスト(向かい風)。バンカーのアゴ(へり)に当たることも考慮して、6番か7番かで迷う状況。中川さんが7番を提案する中、ミニョン選手は6番を選択。ピン手前につけ、見事にパーセーブを果たします。
このように、ミニョン選手のゴルフは、つねに距離をコントロールする意識が見て取れます。風や距離の情報をもとに、ターゲットに対してボールをコントロールする意識をつねに持っていると、体が勝手に反応して、スウィングの大きさやスピードが調整されるようになってきます。つまり、番手ごとの飛距離を漫然と打つよりも、ターゲット意識がより高まってくるのです。最終日のプレッシャーの中、スーパーショットを連発できるのは、そのような普段からの積み重ねがあると私は見ます。
読者のみなさんも、練習場で一つのクラブでターゲットを変えながら打ってみる。一つのクラブで色々な距離を打ってみる。そのような練習をすると、ミニョン選手のような「あえて飛ばさないゴルフ」が身につき、スコアアップできると思います。