1日単位、1週間単位での“気分転換”でつねに良い流れをつかむ
アマチュアゴルファーにも、いつもと違う仲間と回ったらいいスコアで回れたとか、新しいパターを下ろしたらいきなりハーフのベストが出た! といった経験を持つ人は少なくないのではないだろうか。ゴルフでは、時に“気分転換”が思いもかけぬ効果をもたらすことがある。
女子ツアーで見事スタートダッシュに成功した鈴木愛は、この気分転換の“名手”と言っていいかもしれない。プレーオフの末に敗れた「ヨコハマタイヤPRGRレディスカップ」ではマレット型のセンターシャフトのパターを使用し、勝った「Tポイントレディス」でも初日はそのパターを使っていた。しかし、最終日はエースパターのピン型にチェンジし、勝利を収めた。
キャディも前週とは異なったキャディを起用。スコアメークに欠かせない存在であるパターとキャディを変えることで、調子の波をつかんでいるように見える。鈴木のこの“気分転換力”とでも言うべき能力を心理カウンセラーの経験からメンタルトレーナーとしてゴルファーを導く近藤好巳さんはこう分析する。
「Tポイントレディス最終日の6番ホールでティショットをOBとしてしまったとき、キャディが『まずはボギーで上がってそのあと考えよう』と言ってくれたので切り替えられたとラウンド後のインタビューで鈴木選手が話していましたが、いわゆる“アンガーマネジメント(怒りを予防し制御する)”をするには、実は気分転換が非常に重要です。たとえば、短いパットを外しイラっとしたときに、次のホールに引きずらずにどう消化するか。ゴルフでは特にその切り替えが大切になります。鈴木選手の場合、ひとホールごとの気分転換だけではなくキャディを変えることで試合ごとの気分転換も上手なんだといえます」(近藤)
空を見上げる、深呼吸する、遠くの山並みを眺める……プロに話を聞くと、ラウンド中の“気分転換術”をそれぞれなにかしら持っている。鈴木の場合、それを1ホール単位ではなく、パターを変えることで1日単位、さらにはキャディを変えることで1週間の単位で行っているということだ。
とはいえ、いつも同じキャディ、いつも同じパターのほうが安心感があっていいと普通は考えそうなもの。そもそもこのような気分転換力を発揮できるのも、鈴木個人の資質があってのことだと近藤トレーナーは言う。
「鈴木選手の場合、意思決定の助言を求めるキャディを変えるということから、誰かの助言を頼りにするというよりも、頼る人は自分自身というタイプといえます。勝ちたいという欲を満たすために決断するのは自分自身と考えているのでしょう。人に左右されず彼女自身の意思で決めているので、直前にパターを変えても崩れない。もちろんその影には練習に裏付けされた自信があるからこそですが」(近藤)
鈴木自身はパターの変更をあくまでフィーリングで行っていると語る。なにが今の一番自分にとってベストかを無意識に選びとることができる直感力もまた、鈴木の強さの秘密かもしれない。