プロゴルファーであり、ツアー解説者でもあるタケ小山は、「上手くなるために大事なのは『見ること』です」と話す。鮮烈なデビュー戦をはじめ、ここぞという場面でグリーン外からチップインを決めてきた石川遼。そんな彼の考え方、プレースタイルは、ミドルホールをパーオンできないアマチュアやシニア世代にとって、とても参考になるという。著書「ゴルフは100球打つより見てなんぼ!」より、石川遼のアプローチに対する考え方をご紹介。

プロのチップインは「まぐれ」ではない

衝撃的なデビュー戦をはじめ、石川選手は何度も“ここぞ”という場面で、グリーンの外から奇跡的なチップインを決めます。でも、「ピンにガチャンと当たって入ることも多いから、半分ぐらいは偶然でしょ」と思っているアマチュアも多いでしょう。

画像: 2018年は選手会長として日本ツアーに本格復帰する石川(写真は2017年の三井住友VISA太平洋マスターズ)

2018年は選手会長として日本ツアーに本格復帰する石川(写真は2017年の三井住友VISA太平洋マスターズ)

はっきりいいますが、それは大間違いです。

たとえば、09年に彼が『ミズノオープンよみうりクラシック』で優勝したとき。あのときも16番ホールのパー5で、3打目のアプローチを直接カップインさせて、チップインイーグルを奪いましたが、決してナイスタッチのアプローチではありませんでした。

ピンが左奥でグリーンは右手前から奥に下っている状況。右手前のラフから打った石川選手のアプローチは、解説者も思わず、「あー、これはダメだ!」と声を上げるくらい強かったのです。

画像: 今をさかのぼること9年。石川遼は右手前のラフからチップインイーグルを決めた(写真:ミズノオープンよみうりクラシック2009)

今をさかのぼること9年。石川遼は右手前のラフからチップインイーグルを決めた(写真:ミズノオープンよみうりクラシック2009)

しかし、結果はチップインイーグル。ギャラリーやプロたちも、「持っているね、遼くんは」と思ったかもしれません。

たしかに、「持っている」部分もありました。ピンに当たっていなければ、グリーンをかなりオーバーしていたでしょう。でも、「持っている」だけでは、絶対に入らないのです。

私は、ある表情に注目しました。12年に開催された「ブリヂストンオープン」で、谷口徹選手が最終18番ホールのパー5の3打目を直接カップインさせて、奇跡の逆転チップインイーグルを奪った瞬間、バンザイしながら何度も飛び跳ねていましたよね。本人も予想していないのに、「入っちゃった」ときは、ああいうリアクションになるものです。でも、ミズノオープンのときの石川選手は違いました。

「少し強かったけど、入っても不思議じゃない。なんでそんなに騒いでいるの?」

というような表情をしていたのです。

彼がまだ子供の頃、飛距離が出なかったので、少し距離のあるホールは、なかなかパーオンできなかったそうです。だから、「パー4なら、3打目のアプローチで寄せなければパーを獲れないし、バーディを獲るには入れなきゃいけない。ジュニアの頃はずっとそういう状況でプレーしていた」という彼のコメントを聞いたことがあります。

きっと、ラウンドでは毎ホールのようにウェッジを使って、アプローチをしていたのでしょう。ミドルホールでパーオンできなかったら、必然的にそういうゴルフにならざるを得ません。

しかも「寄せる」のは当然のことで、「あそこに落としたらこう転がって入るな」というところまでイメージして打っていたはずです。

パーを獲るにはアプローチをきっちり寄せること、バーディを獲るなら外から入れること、というゴルフが彼の下支えになっているのです。

その意識は、プロになってもまったく変わっていない。「入れるんだ!」という強い気持ちでアプローチしているから、ピンをオーバーさせる強さで打てるし、その結果としてチップインの確率も高くなる。だから、石川選手のチップインは、「まぐれ」ではないのです。

シニアの世代になってガクッと飛距離が落ちてしまい、「400ヤードを超えるミドルホールはもうパーオンできない」なんて嘆いているアマチュアも多いでしょう。それでクラブを握るのを止めてしまう、という人もいると聞きます。そういう人には、この石川選手のプレースタイルがとても参考になるはずだし、その姿勢をぜひ見習ってほしい。

パーオンできないなら、次のアプローチが寄せやすいところ、チップインの可能性もある場所に、きっちりボールを運べばいいのです。パーオンしなくても、パーは獲れるし、バーディだって獲れる。それがゴルフというゲームの奥の深さであり、醍醐味でもあるのですから。

「ゴルフは100球打つより見てなんぼ!」(ゴルフダイジェスト新書)より

写真/姉崎正

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