ゴルフマナー研究家の鈴木康之は、ゴルフのプレー中は言葉を“控え目”にするほうがいいと話す。それは一体なぜなのか? 自身の著書「ゴルファーのスピリット」からプレー中の言葉についてご紹介。

ゴルフの言葉は控えめが賢明

ゴルフコースには地雷がいっぱい埋まっているから気をつけなさい、と少しばかり先輩の顔をして注意してあげたい時があります。

しかし、どう歩けば地雷を踏まずにすむか、自信を持って答えてあげられません。コース歩行歴30余年にして私自身が未だに地雷を踏んでしまうことがあります。踏んだときの処し方も未だし。我を失ってもう一つ踏んでしまい、よろけてはまた踏み、血まみれの重体になることがまだあります。

ゴルフコースという戦場は、ミスショットという地雷だけではないから難儀です。心の中の地雷にもくれぐれもご用心を。戦友同士がそれぞれに心の中に地雷を抱えています。みんなハラハラを腹に、ビクビクを首に抱えながら、何ホールもつだろうかの不安をこらえてティオフしていきます。

とくに出だしのホール、人それぞれに何かを「考え中」のはず。そんな時、おのれの1打の解説、言い訳の垂れ流し、それも近頃耳障りな「……じゃないですかぁ」と同調を求める喋り方。おのれの雑音を他人に聞かせるな、と耳をふさぎたくなります。みんな自分のことで手一杯です。そこでは人の心の地雷に触れないように静かにしていることが無難です。

コミュニケーションは控え目な優しい眼差しのヤリトリからが賢い要領です。その人の心の平静と友情が確かめられたら、言葉のコミュニケーション。まずは、「ええ」とか「そうですね」とか返事が簡単ですし、気持ちの負担にならない天候関係の話題あたりが相手思いです。少し会話を深めたいのなら、その人のニュークラブやさっきのナイスショットのことなどで話し掛けるのが効果的。自分のことなら話したくなります。会話上手とは、聞き上手、話のさせ上手なのです。

画像: いきなりナイスショットなどの言葉を掛けるよりも、天気や軽い返事など無難な会話から入るのが“吉”

いきなりナイスショットなどの言葉を掛けるよりも、天気や軽い返事など無難な会話から入るのが“吉”

グリーンに乗ったから「ナイスオン」とは限りません。乗っただけのオンか、本当に「ナイスオン」なのかどうか、その人がそう思っているかどうか、それが分からないうちは習慣的な「ナイスオン」は控えるのが賢明です。

ゴルフにはこんなこともあります。「ボールマーカーをずらしましょうか」と言ってあげるといかにも気が利いているように思われますが、さにあらずです。その人のラインの読みが間違っていたら、「そこを通さなければならないのだろうか」「そこまで切れるのだろうか」と惑わすことになります。マッチプレーの場合には相手を惑わす作戦と思われかねません。目だけを向けておき、求められたらずらす。それが本当に相手思いの作法でしょう。

さて、地雷を踏み続け、千々に乱れ、失意のどん底に泣く御仁にはお悔やみの言葉ではないけれど、何と申し上げてよいやら。こんなとき名キャディはどうするのだろう。

私はある名キャディさんを知っています。かくかくしかじかのとき、あなたならどういう言葉を掛けてあげようと努めるか、教えて頂戴、と気安く尋ねました。そうしたら「また雑誌か何かにコース名も私の名前もお書きになるんでしょう。ごめんなさい。職業柄、わたくしだけが出るのって快しとしませんので。控えめが習い性となっています。悪しからず」と逃げられました。

たいへん迂闊でした。控え目はゴルフでは最良の賢明策。そうなのでした。

「ゴルファーのスピリット」(ゴルフダイジェスト新書)より

写真/有原裕晶

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