英国で「5円玉」が喜ばれるのはなぜ?
英国へ行くとき、私は引き出しに貯まった五円玉を洗剤に浸し、ピカピカに磨いて行きます。普段50ペンス銀貨をボールマーカーにしているのですが、英国で英国のお金をボールマーカーにするのははばかられ、五円玉を使います。そして出会うゴルファーやキャディにあげます。穴あきコインは珍しい上、「イン・ザ・ホール・コインだと」などと言って喜ばせます。
ところで私があるところで、バッグに備える小物の話に「ボールマーカー数種」と書いたところ、読者から数種とはどういう意味かというお尋ねがありました。
昔はキャディが赤い毛糸の端切れを用意していて、それでマークしてくれたものです。あれは葉先が尖った高麗芝との相性のいいボールマーカーでした。いまはコースがプラスチック製の画鋲型ボールマーカーを用意しています。3つ4つ色違いがあります。一色ではどっちが誰のものか分からなくなることがあるからです。
このことこそまさにボールマーカーの要点です。ボールは名前や識別マークをつけて自球であると証明できるものでないといけません。そのボール位置をマークするものですから、ボールマーカーもまた、どっちが自分のものであるか証明できるものでなければ機能しません。
そこで私は、コースのものは3つ4つ色違いがあっても、人と同じになる可能性がありますから使いません。50ペンス銀貨を使います。独特の七角形が気に入っているからですが、色艶が地味でさりげなく、人のボールのすぐ近くにある場合でも、目の邪魔にならなくて、安心できるのも理由です。目立ちすぎるものは目の下で気になりはしないか心配です。
画鋲型のものを使う時もあります。人のラインに近い場合、硬貨や最近人気のマグネット式のものは、芝の上に浮いて厚みが邪魔しそうですから、刺さってフラットに収まる画鋲式のものが好都合です。
人のライン近くの場合、よくパターのソールでとんとんと押さえ付ける人がいますが、危険です。自分がボールが置いてアドレスをとったとき、押さえ付けたためにできた僅かな凹みのためにボールが動き出したり、パターに当たったりすることがあります。ちゃんとブレードレングスを使って移動するのが正しい処置です。
50ペンス銀貨も画鋲型のものもどちらも使えなくて困る日があります。桜の散る日や強風でグリーン上が散らかった日などは役に立ちません。こういう日は大きなものや派手目のもの、臨機応変、ロングティやグリーンフォークを置きます。4人がそれぞれに遠く乗っている場合も同じ。なるべく目立つものを使うのが親切です。ボールそのものを置くのも人に分かりやすくていいでしょう。
ボールマーカーは、自分が自球の位置を見失わないためのものであると同時に、人に位置を知らせるためのものであるからです。こうした要領で、ラインを踏むことも踏まれることもなく、順番の間違えもなく、ゲームはスムーズに進行します。
ゴルフ規則第一章エチケットの一文を思い出してください。「ゴルフゲームは、プレーヤーの1人1人が他のプレーヤーに対して常に心配りをし......」とあります。気づかないとはさりげなくて人にそれとは気づかれない些細な行いです。
「ゴルファーのスピリット」(ゴルフダイジェスト新書)より
写真/阪上恭史