トップからクラブを寝かすガルシア的スウィング
石川遼といえば、左右への強い体重移動を伴うアップライトな(シャフトと地面の作る角度が大きい)スウィングが代名詞でした。今回見た石川選手のスウィングは、かつてないほど大きな変化をしている。そう感じました。
特徴的なのは、まずスウィングの前段階である素振りです。トップから、クラブを水平を超えるレベルまで寝かせるように切り返す動きを何度も何度も繰り返していました。この動きは、昨年のマスターズ王者、セルヒオ・ガルシアをイメージしてもらうとわかりやすいと思います。
ガルシアのスウィングは、トップからクラブを一度寝かせる(地面に対して平行に近づける)のが大きな特徴。そして、インパクト付近では、寝たクラブを立てるような動きでフェースローテーションをスムーズに行い、ヘッドスピードを上げ、ボールをつかまえて飛ばしています。
実は、石川選手のスウィング改造には、この「クラブが寝る」ことに悩んできたという歴史があります。クラブが寝ると、手元が浮き、フェースが遅れてくることで、フェースコントロールが難しくなります。フェースが寝たままインパクトすればプッシュアウト(右にまっすぐ飛ぶミス)、それを嫌ってフェースを返せばチーピン(急激に左に曲がるミス)の恐怖があります。
昨年秋、日本オープンの練習日に見た石川選手は、クラブが“寝てしまう”のを防ぐため、一生懸命クラブをタテに使おうとしていました。しかし、結果的にはインパクト付近で手元が浮いてクラブが寝てしまうという悪い癖を消すことができていませんでした。
その時期から始めたスウィング改造で石川選手が取り組んだのは、以前とは真逆の発想。つまり、一度切り返しでクラブを寝かせることで、インパクトでは逆に「立てる」ことができるということです。
この体とクラブの動きのことを、最近のスウィング用語では「パッシブトルク」と言います。クラブが寝ることで、腕はクルマのハンドルを右に切るような動きをします。人間の筋肉にはゴムのような性質があり、ねじられた筋肉は元の位置に戻ろうとします。すなわちそれがパッシブ(受動的)トルクということ。
このような動きを、石川選手は素振りではかなり大げさに繰り返していました。ただ、実際のスウィングでは極めてノーマル。以前に比べて体重移動が収まり、手元が浮く悪癖が収まり、クラブは滑らかに面の上を滑り降りてきていました。本人の意識では、ガルシアになるくらいの大きなイメージチェンジをして初めて、長く付き合ってきたクセを改善することができたのでしょう。
石川選手のスウィング改造に関しては、賛否両論がこれまでありました。本人は、あくまでベストなものを目指す過程なのだと説明していましたが、正直に申し上げて迷走しているように見えた部分があったのもたしかです。
しかし、今回披露されたスウィングは、明確に設定されたゴールに対し、一歩一歩進んできた結果であることが伝わってくるものでした。スウィング改造というと、Aというスウィングのやり方からBというスウィングのやり方に変えたような印象を持たれるかもしれませんが、今回に関しては、端的に石川選手のスウィングの短所を消し、長所を伸ばす改造になっていたからです。スウィング改造というよりも、スウィング改善といっていいかもしれません。
ゴルフはスウィングの良し悪しだけでは決まりませんが、スウィングは「かなりいい」と言っていい。開幕戦でのパフォーマンスを期待したいと思います。
撮影/三木崇徳