石川遼と1打差、重永亜斗夢の勝利で幕を閉じた東建ホームメイトカップ。激闘の裏側で、ゴルフオタクのギアライター・小倉勇人がツアーキャディに初挑戦していた! プロの戦いを間近で見た小倉が「プロゴルファーって大変な仕事だ」としみじみ語る。

ツアーキャディをやってみた

皆さんこんにちは。ギアオタクゴルフショップ店長の小倉です。実は私、前職はゴルフ雑誌の編集者をしておりまして、現在もお店を切り盛りしながら編集業、執筆業もしております。

先日中井学プロを取材中、「よしっ!」と喜んでいたので「どうしました?」と声をかけたところ「日本男子のツアー開幕戦東建ホームメイトカップの出場が決まった!」と。「おおぅ! おめでとうございます! 何ならキャディでもしましょうか?」なんて冗談交じりに言ったら、

「本当ですか? 是非お願いしますっ!」

へ? 自分なんかでいいの? たしかに学生時代(20年近く前です)にキャディはやっていたし、トーナメントバイトでツアーキャディはやっていたけど……。

というわけでやってみました!

画像: 小倉がキャディを務めたプロゴルファー・中井学。開幕戦は3年連続3度目の出場

小倉がキャディを務めたプロゴルファー・中井学。開幕戦は3年連続3度目の出場

日本のツアーでは、出場が決まっているプロは大体月曜日に会場付近に移動します。今回我々の出場する「東建ホームメイトカップ」の開催ゴルフ場は三重県桑名市にある東建多度カントリークラブ・名古屋。中井プロと相談し、東京から車で行くことに。

ツアープロは、1週間の長旅であると同時に戦うために必要なクラブがあるため、非常に大荷物です。新幹線や飛行機で移動すると体は楽な反面、荷物を預けたり送ったりとかなり面倒。もちろん車での移動は荷物の運搬は楽ですが、時間がかかる……プロ達は会場によって移動手段を変えています。我々は午前8時頃に東京を出発し、途中休憩をはさみつつ、現地に着いたのは午後2時頃。渋滞もなくスムーズな移動でした。

ツアーキャディをやってしみじみ思う。「ゴルフって、不公平!」

火曜日は指定練習日。事前に登録をして練習ラウンドを行います。一緒に回る方は、自分である程度決められます。予選ラウンドのパーティを見ると、このプロはこのプロと仲が良いのか~なんてことも見られて面白かったです。

練習ラウンドでは、主にグリーン周りのチェックをします。過去のピン位置を元に4日間どこにピンが切られるかを予想しながら、風を想定し、「どこが一番行ってはいけないところか?」「外すならどこか?」「一番バーディの取りやすいところはグリーンのどのあたりか?」等をチェックしていきます。

練習ラウンド後は、時間があればドライビングレンジへ、なければパッティンググリーンでパッティング練習。中井プロは東建に3年連続で出ているのでコースレイアウトは熟知していましたが、コンディションは毎年違うので、クラブセッティングも再度見直したりと、この日にできる限りの準備をします。

画像: 指定練習日。誰もいなくなるまで練習を重ねる中井。キャディの小倉も当然、最後まで付き合う

指定練習日。誰もいなくなるまで練習を重ねる中井。キャディの小倉も当然、最後まで付き合う

それらの準備を支えるために各メーカーのツアーサービスのバスがたくさん来ていて、メーカーさん達は、火曜日が一番忙しい日。どのバスの中でも、プロのクラブの調整で忙しそうでした。パッティンググリーン上では、各メーカーがたくさんの種類のパターや練習器具を並べています。プロにより良い結果を出してもらいたいという思いと、使って活躍してもらえれば最高の宣伝になりますからね。

水曜日は、プロアマの日。トーナメントによって違うのですが、同試合は先着順で少ない枠ですがハーフだけ練習ラウンドが認められていたので、中井プロはハーフだけラウンド。試合前にできるだけの調整を試みます。

画像: 水曜日はプロアマ戦が始まる前にプレー

水曜日はプロアマ戦が始まる前にプレー

いよいよ木曜日。予選一日目です。プロの試合は、基本18ホールスルーです。アマチュアのように休憩はありません。午前中に18ホール回るグループと午後18ホール回るグループに分かれます。組み合わせは予選2日間同じで1日目に午前プレーしたグループは、2日目は午後。1日目に午後プレーしたグループは、2日目は午前にとなります。中井プロは初日13:10スタート。午後の最終組でした。

この時思いましたよ。「ゴルフはつくづく不公平なスポーツ」だと。午前中風はほとんどなく、穏やかな気候でしたが、午後から突風を含む強い風が吹き荒れ過酷な環境に。コースに着くと、午前の組は半分ほどプレーを終了していて、ビッグスコアがボードに並んでいました。レンジでウォームアップをしている頃に風が吹き始め、スタート直前には、かなりの強さに。そんな中、我々はスタートしていきました。

プレー中にキャディのすることは、クラブの運搬、グリーン上でのボール拭き、ピンの抜き差しに加え、専門職の方は、クラブ選択のアドバイスや、風、グリーンの読み、時にはメンタルのコントロールなど多岐に渡ります。私は基本的な部分と少しだけ風とグリーンの読みのお手伝いをさせてもらいました。

ちなみに東建多度CC・名古屋のグリーンはめちゃめちゃ難しい! 何が難しいってプロが全く同じように打っても転がりが一定しないんです。グリーン上には砂が巻かれていて硬さと速さを出す工夫がされているのですが、この砂が原因なのかほぼ同じ転がりなのに切れたり切れなかったりとプロでも困惑するぐらい。それでいて転がりが変わるぐらい強風が吹いているのですから、見ている方もストレスが溜まりましたよ!

「試合が始まったらスウィングなんて関係あらへん」

金曜日、予選通過をかけた2日目です。

木曜日の午後から吹き始めた風はやむどころか、午前中から吹き荒れていてさらにグリーンは乾き、さらに難しいコンディションに。予選通過ラインにいた中井プロも風に対応できず、残念ながら予選通過はなりませんでした。

練習日からキャディをやらせて頂いて率直な感想は、生半可な気持ちじゃできないなということ。まず1週間も続く長い緊張感です。私が慣れていないだけかもしれませんが、練習日からじわじわと高まる緊張感とプレッシャーは、ジワジワと響いてきます。

そしてプレー中も1日4時間ずっと気を抜く暇がありません。こんな状態でシビアなコンディションで戦わなければならない。そりゃかなり経験を積んで慣れないと結果を出すのは難しいと思いました。突然出てきて勝てる選手はよほどの強心臓か、良い意味の鈍感さを持ったプロでしょう。普通のゴルファーは、飲まれちゃいますよあの空気に。

それとやっぱり体力ですね。いくら1日18ホールとはいえ、キャディはバッグを担いて歩きます。選手にもよりますが、20キロ前後のバッグを持って起伏のある芝の上を持って歩くのですから、それなりの体力が必要です。1~2日は大したことなくても連続で4日も続くとバッグのショルダーストラップが擦れて肩の皮がむけたり、首が痛くなったりと体のケアが必要になってきます。ある意味ツアープロより体はきついかもしれません。最長6日間担ぐツアーキャディには、感服します。

中井プロには、とても良い経験をさせて頂いて本当に感謝しています。贔屓目なしにして、中井プロが打っている球の質は、他のプロに決して劣っていないと感じました。その良い球を不公平な環境の中でいかに4日間続けられるかというのがトーナメントの難しいところなんだなと感じました。

今回のトーナメントで最も象徴的だったのが、中井プロと谷口徹プロの会話で出てきた谷口プロの一言、「試合が始まったらスウィングなんて関係あらへん。いくら良い球打ったってスコアにならん時はならんからね」。

深い……。

写真/小倉勇人

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